消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学
消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学(ジェフリー・ミラー 著/片岡宏仁 訳/勁草書房/3500円+税/474ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Geoffrey Miller●米ニューメキシコ大学准教授。1987年米コロンビア大学を卒業。米スタンフォード大学において認知心理学で博士号を取得。英ノッティンガム大学講師、英ユニバーシティカレッジロンドン上級研究員などを経て、2001年から現職。

社会的適応度に照らして諸商品を明快に分析

評者 北海道大学大学院経済学研究院教授 橋本 努

この安っぽい装丁に騙されてはいけない。本書は過去30年の消費論研究で、最高の収穫ではないだろうか。ヴェブレンやボードリヤールに並ぶ理論的達成といってもよいかもしれない。

確かに出だしの二つの章を読むと、最近の消費論の動向を軽快に語った一般書に過ぎないようにみえる。だが第4章では、ヴェブレンのいう「顕示的消費」との対比で「自己刺激的消費」の特徴が周到な考察とともに示される。別の研究成果を参照しているとはいえ、すぐれた考察だ。

たとえば2007年に発売されたiPodの第6世代Classic。音楽なら5万曲、動画なら200時間分を収められるようになった。その洗練されたデザインを見せびらかしたくなるが、用途の中心は消費者の自己愛を刺激するもの。音楽を聴くことができるのは本人のみだ。iPodが生み出すのは夢想の世界で、ユーザーたちの独りよがりの快楽追求を刺激する。ヴェブレンが論じたような、社交的で名声に貪欲な消費行動とは異なるタイプの行動だ。

ではiPodなどの商品は、何を顕示しているのか。現代の消費社会においては、商品が示す社会的シグナルは舞台裏に隠されていなければならないと著者は指摘する。たとえば独身男性向けのスポーツ車は、「これを運転すれば若い美人の注意を引くことができる」とほのめかすけれども、直接そのような広告をしたら反証されてしまう。実際にはモテないかもしれないし、同じコストをかけるなら別のよい手段があるかもしれない。

消費者の側もそれを理解したうえで、商品を大胆に見せびらかすよりも、「この製品の技術的なすばらしさを自分の個人的かっこよさに転換して社会的・性的な利得を得られるのは自分しかいない」という具合に、商品に対して耽美的な自己愛の世界を築くようになった。こうした舞台裏で自己愛を刺激する回路は、現代の技術革新がもたらした消費の大転換であるだろう。

かつてヴェブレンは顕示的消費の対極に、物づくりの職人芸を位置づけた。だが私たちが顕示するのは、社会的名声よりも職人的な技巧に近づいている。たとえばトヨタ自動車のレクサスは、わかる人にはわかる精巧によって社会的地位を示す顕示財といえる。

この他にも本書は、開放性や堅実性など、社会的適応度の六要素に照らして諸商品を分析しており興味深い。理論の応用に奥行きがあり、社会の観察に悦びがある。