東大史料編纂所教授 本郷和人
ほんごう・かずと●1960年生まれ。東大・同大学院で日本中世史を学ぶ。『日本史のツボ』『新・中世王権論』『戦いの日本史』など著書多数。(撮影:梅谷秀司)

最近は歴史教養をテーマとするテレビ番組が多く、書店に行けば歴史に関する書籍がうずたかく積まれています。誰もが歴史を受験科目として暗記してきたことが、歴史への関心の基になっているのかもしれません。

とはいえ、歴史学者の私としては、今の様子では残念ながら大学入試から日本史を外すしかないと思っています。最近、特に難易度が高いとされている大学入試で出される日本史の問題は、クイズのような内容が頻出しています。たとえば、正解として固有名詞や年号のみを答えさせるような単純な問題です。

歴史は暗記科目ではないというのが持論です。単に知っている知っていないで答えるだけの問題ではなく、きちんと歴史を考える問題を入試で出すべきではないでしょうか。受験生が「これはすごい問題だ」と解答中に思わずうなるような問題を出すべきで、現在はそのような問題を作成できない日本史研究者しかいない、ということです。そんな現状であれば、入試科目に日本史は入れないほうがいいでしょう。

これまでの日本の歴史学は、戦前の皇国史観から、戦後は唯物史観へと大きく変わりました。万世一系の天皇を中心とする「日本」の国体を重視する皇国史観は第2次世界大戦での敗戦で一掃され、代わりにマルクス主義の歴史観である唯物史観が広まりました。唯物史観とは、端的にいえば、戦国武将などの英雄中心の歴史ではなく、一般庶民の生活の営みのほうが重要だとする見方です。

政治的には右から左へとシフトした歴史学ですが、変わらなかったものもあります。それは、「都」を中心とした歴史観です。

一つ例を挙げましょう。奈良時代に発行されたという和同開珎(わどうかいちん)。これは本当に貨幣として流通したのでしょうか。現代では、国があれば貨幣が造られ、そこの国民は誰もが使うと思いがちです。