コンピュータは意味を理解することができない。AI(人工知能)といっても、それはコンピュータ、すなわち計算機にすぎない。計算機にできることは四則演算(正確には足し算と掛け算)だけだ。さらに数学的言語で処理できるのは論理、確率、統計だけである。それだから、AIが人間の力を借りずに自分自身の能力よりも高いAIを作り出すようなシンギュラリティ(技術的特異点)は、量子コンピュータが登場しても非ノイマン型コンピュータが登場してもやってこない。とはいえ、考える力が人間にあるかぎりAIを怖がる必要はない、と結論づけるのは早計だ。

AIが人間の仕事のすべてを奪ってしまうことはないとしても、AIと競合する分野では人間の仕事の多くがAIに代替される状況が近未来に迫っている。

国立情報学研究所の新井紀子教授は、英オックスフォード大学の研究チームが2013年に発表した「AI化によって10~20年後になくなる仕事」として以下のものを挙げる。上位20を記しておく。

〈1.電話販売員(テレマーケター)
2.不動産登記の審査・調査
3.手縫いの仕立屋
4.コンピューターを使ったデータの収集・加工・分析
5.保険業者
6.時計修理工
7.貨物取扱人
8.税務申告代行者
9.フィルム写真の現像技術者
10.銀行の新規口座開設担当者
11.図書館司書の補助員
12.データ入力作業員
13.時計の組立・調整工
14.保険金請求・保険契約代行者
15.証券会社の一般事務員
16.受注係
17.(住宅・教育・自動車ローンなどの)融資担当者
18.自動車保険鑑定人
19.スポーツの審判員
20.銀行の窓口係 〉(新井紀子『AIvs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社、2018年、73ページ)

この中には時計組立工、スポーツ審判員などのようにこれまで職人芸が求められてきたものもあるが、大多数は大学卒業者が就く事務職だ。AI化によって不要とされる労働人口を上回る新たな雇用が生み出されないかぎり、ホワイトカラーの大量失業時代がやってくることは間違いない。

それではどうやってそういった事態を避けるか。結論を言えば、AIに代替されないスキルを身に付けるしかない。その前提として、AIが得意とする数学的言語を用いた世界についての基礎知識を持っておく必要がある。