「どうやっても開かないんだよ。時間も迫ってきたので、どうしようもないから、服を全部脱いで素っ裸になったさ」

これは、昭和2年生まれの私の父による陸軍中野学校時代の話である。そもそも背景の説明がほとんどなく、普通の人とかなり懸け離れた感性を持つ父の話は極めてわかりにくい。だから、家族であってもまともに耳を傾けているのは私くらいのものだった。物心ついたときから何度も何度も話を聞いてきたからこそわかるのであり、初めて父を知る人には理解不能である。

このときの話は、中野学校での鍵の解錠についての試験のエピソードだった。深夜2時までに三つの鍵で施錠してある真っ暗な地下の区画に侵入し、その中にある封書を持ち出せという課題が出た。