官僚たちのアベノミクス――異形の経済政策はいかに作られたか (岩波新書)
官僚たちのアベノミクス――異形の経済政策はいかに作られたか (軽部謙介 著/岩波新書/860円+税/272ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
かるべ・けんすけ●時事通信社解説委員。1955年生まれ。早稲田大学卒業後、時事通信社入社。社会部、福岡支社、那覇支局などを経て、東京本社経済部へ。その後、米ワシントン支局特派員、経済部次長、ワシントン支局長、米ニューヨーク総局長、編集局次長、解説委員長を経る。

アベノミクスの今後を見通すヒントを示す

評者 上智大学経済学部准教授 中里 透

アベノミクスがスタートして5年が経過した。異次元緩和も4月4日に丸5年を迎える。「三本の矢」と「黒田バズーカ」の評価は立場によってさまざまだが、このあたりでその原点を振り返っておくことは、経済財政運営の今後の道行きを考えるうえで意義のある試みであろう。本書はその作業、とりわけ「第一の矢」(金融政策)の点検を行ううえで有力な手がかりを与えてくれる。

今では新聞やテレビで金融政策をめぐる議論が毎日のように行われているが、アベノミクスがスタートする前、金融政策は多くの人にとってやや縁遠いものであった。とりわけ永田町においてはそうだ。金融政策の運営は専門的・技術的な側面が強いためにわかりにくく、「票にならない」ものだったからだ。

だが、2012年の衆院選では「大胆な金融緩和」が自民党の政権公約の重点項目に躍り出る。「デフレは貨幣的現象」だから、それに対処するには「輪転機をぐるぐる回してお札を刷ればよい」。この明快なメッセージは多くの支持を得て、金融政策は安倍晋三内閣の経済政策の中心の位置を占めることとなった。

本書の興味深いところは、「大胆な金融緩和」の提案が量的・質的金融緩和という具体的な政策として結実するまでの経過が、綿密な取材をもとに詳細に描かれていることだ。政府と日本銀行の連携強化を謳った文書の呼称は「アコード」なのか「共同声明」なのか。物価目標の達成時期は「2年」なのか「できるだけ早期に」なのか。文書の一言一句をめぐって関係者の間にせめぎあいがあり、ぎりぎりの調整を経て、句読点の位置までが緻密に詰められた成案を得るに至る。そこには官僚と日銀マンの知恵と奮闘が凝縮されている。

本書は13年4月に量的・質的金融緩和が導入され、「異形の経済政策」が「スタートダッシュに成功した」ところで終わるが、アベノミクスにはもちろん続きがある。それは14年4月の消費増税から日銀による追加緩和、消費税の再増税の延期、マイナス金利政策の導入を経て現在に至る一連の経過だ。これはデフレ脱却の取り組みと財政健全化の取り組みのせめぎあいの過程であり、その構図は19年10月の消費増税をめぐる議論にも引き継がれている。

6年目に入るアベノミクスは、この先どのように展開していくのだろう。それを見通すためのヒントも本書に示されている。