資本主義と死の欲動 〔フロイトとケインズ〕
資本主義と死の欲動 〔フロイトとケインズ〕(ジル・ドスタレール、ベルナール・マリス 著/斉藤日出治 訳/藤原書店/3000円+税/264ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Gilles Dostaler●1946-2011カナダ生まれ。仏パリ第8大学にて博士号を取得。加ケベック大学教授。ケインズ、ハイエク、フリードマンを主な研究対象として経済思想史を専攻した。
Bernard Maris●1946-2015フランス生まれ。ジャーナリストとして仏紙誌に寄稿。仏トゥルーズ大学で経済学を教えた後、仏パリ第8大学欧州研究所、米ロワ大学でも教鞭を執った。

洞察に満ちた資本主義批判

評者 北海道大学経済学研究院教授 橋本 努

人は「快楽原則」によって動く一方、その快楽を否定してしまう存在でもある。自己の内に「超自我」の理想を立てて、快楽よりも重要な文化的な事業を追求しようと企てる。だがそれでは人間は、「超自我」の重みに押しつぶされてしまうのではないか、というのが心理学者フロイトの懸念だった。

やがて第1次世界大戦を目の当たりにした晩年のフロイトは、人間には「エロス(快への欲動)」のほかに「タナトス(死への欲動)」があると考えた。たとえば「敵国を征服したい」という欲望の背後には、「世界をすべて無に帰したい」という恐るべき欲望があるのではないか。核戦争の可能性は、こうした世界破滅への欲望を想定するに十分なものだった。

「死への欲動」は、戦争のみならず、資本主義のシステムにも同様に当てはまるであろう。資本主義は人類を破滅に向かわせる装置である、というのが本書の視点だ。著者らによれば、20世紀初頭に活躍したフロイトとケインズは、こうした身の毛のよだつ洞察を共に持っていた。とりわけケインズは私たちの「貨幣愛」(すなわち「流動性への選好」)によって、健全な投資が抑制され、システム全体が停滞してしまうという点に注目した。加えて資本主義は、地代によって安易に稼ごうとする不労所得者たちを生み出して、しだいにシステム全体の活力を奪っていく。むろん、では資本主義の下で勤勉に働く人が増えればよいのかといえば、そうでもない。勤労道徳もまた「生の享受(エロス)」を引き延ばして疎外を招いてしまうからである。勤労もやはり「死への欲動(タナトス)」に突き動かされている。

このように資本主義においては、貨幣愛に取りつかれた人々も不労所得者たちも、あるいは勤勉な労働者たちもみな、タナトス(死への欲動)によって突き動かされる。今日のグローバル経済もまた然りであり、「タナトス」によって私たちは破局に導かれているというわけだ。

かつてケインズは講演「わが孫たちの経済的可能性」で、100年後(2030年)の人類は、貨幣愛にとらわれずに富を享受するだろうと予測した。だが現代の資本主義もまた「貨幣愛」を克服してはいない。この苦境を克服するには資本主義のかなたに美と芸術の世界を展望しなければならないというのが、著者らの主張である。洞察に満ちた資本主義批判の書である。