2016年10月3日に内閣府で行われた「2030年展望と改革タスクフォース」会合において、スーパーコンピュータ開発者の齊藤元章氏が、AI(人工知能)が自力で学習して人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が来ると熱弁した。これに対して、国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子教授が辛辣なコメントを行った。長くなるが、日本の科学史に残る歴史的コメントなので記録を正確に引用しておく。

〈齊藤委員のプレゼンに関して、特に2015年のグリーン500において、今までダークホースであったPEZYのコンピュータが1位から3位まで入ったことは非常に画期的なこと。一つの日本のスパコン、特にグリーンのスパコンというような観点で、ぜひ今後も頑張っていただきたい。一方で、数理論理学者というか、計算量の理論の方の研究者として一言申し上げておきたい。計算が大変に速くなったり多くなったり、特に1000倍、1万倍、100万倍ということになると、今まで計算できなかった全てのことが計算できると考えがちであるが、それはまったく見当違いである。例えば私は「ロボットは東大に入れるか」という大学入試を突破するというプロジェクトをしているが、そこで開発しているAIには(東大生が解けているのに)解けない数学の問題がいくつもある。それは今、御提案の次世代のスパコンが地球の滅びる日まで計算しても計算ができないことが理論上わかっているタイプのものばかりである。それをなぜ人間が解けるのか、AIという言葉が生まれてから50年以上研究が進められてきたが、その理由は全くわかっていない。

結局、コンピュータには意味がわからない、というのが決定的な弱点だといえるだろう。画像認識については、人間の脳の動きを模したといわれるニューラルネットワークという統計的手法によって、限定的なタスクに関しては人間を超えるような性能を発揮してはいる。しかし、言葉に関して、つまり言語に関してのシンボルグラウンディングは全く理論上も突破できる見込みがまだ立っていない。意味がわからないコンピュータがどんなに速く計算しても、できない。