外務官僚から職業作家への転身を余儀なくされてから、読む本の数と分野が飛躍的に増えた。時の流れは速いもので、職業作家になってから、すでに13年になる。その間に、速読を含めれば、4万冊近い本に目を通していると思う。職業作家は、プロの本読みでもある。数年前に気づいたことであるが、ベストセラー本をはじめ、社会に大きな影響を与える本が読んだ瞬間にわかるようになった。その一つが2月初めに上梓された新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社刊)だ。本書の意義について語る前に、ある刑事事件について解説する。

筆者の基礎教育はキリスト教神学だ。それだから、宗教に関する感度は平均的な日本人よりも高いと思う。人間は、自分で理解できないことであっても、信じてしまうことがある。特に、日本の文化と深く結び付いている神道は、「言挙げ」(教義内容を理論化すること)を嫌う。そして、外来のさまざまな宗教を受け入れるシンクレティズム(宗教混淆〈こんこう〉)に傾きやすい。それだから、われわれは宗教という形態を取らない宗教を強く信じてしまうことがある。

その一つが、シンギュラリティ(技術的特異点)というAI(人工知能)に関連した宗教だと筆者は考える。この観点から、東京地方検察庁特別捜査部が2017年12月に摘発した、スーパーコンピュータ(スパコン)開発に関連した詐欺事件について考察してみたい。