平成デモクラシー史 (ちくま新書)
平成デモクラシー史 (清水真人 著/ちくま新書/1100円+税/413ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
しみず・まさと●日本経済新聞編集委員。1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部(首相官邸、自民党、公明党、外務省などを担当)、経済部(大蔵省などを担当)、ジュネーブ支局長を経て、2004年から現職。

政権選択を実質的に封じる解散権行使

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

かつての55年体制。自民党政権は派閥の連合体で、首相は解散権や閣僚人事権も思い通りに行使できず、派閥領袖のコンセンサスに沿って政権を運営していた。政策決定も内閣をバイパスし、各省庁と与党議員が練り上げ、党総務会の全会一致による合意を経たものが閣議で決定され、国会に提出されていた。憲法が描く議院内閣制とは異なる統治体制だったのである。

1990年代以降、首相権限の強い英国流の2大政党制を目指し、大きく舵が切られる。本書は、与党官僚内閣制によるコンセンサス型民主主義から多数決型民主主義への移行過程を平成デモクラシーとして論じたものだ。過去30年の日本政治が政局を巡る離合集散だけではなかったことを浮き彫りにした好著である。

変化の起爆剤は小選挙区制導入である。リクルート事件で失墜した政治への信頼回復や竹下派の跡目争いで政争の具とされたが、その導入で派閥は衰退、公認権と政党助成金の配分を握る党執行部に権力が移行する。党首選びも国会議員自らの当選につながる選挙の顔の選択となり、選挙公約も候補者個人の利益誘導の約束から、党首主導のマニフェストに変化する。選挙の顔として誕生した橋本龍太郎首相が打ち出した行財政改革は首相主導を加速させる。

強い首相権限を最初に活用したのが、小選挙区制導入に最後まで反対した小泉純一郎氏だったのは何とも皮肉だ。ただ、その首相主導は小泉個人商店にとどまり、制度化には至らない。民主党政権を含めその後六つの政権はいずれも短命に終わる。第1次安倍晋三政権は首相補佐官と閣僚の二重体制で失敗、民主党政権は使いこなすべき官僚を排除し政権運営が滞る。ねじれ国会の足かせだけでなく、ゲームのルール変更が十分に認識されていなかったのだろう。

これらの失敗を克服したのが再登板した安倍首相で、国政選挙で連勝を続けるが、安倍一強は平成デモクラシーに過剰反応し始める。ねじれ国会であっても財政再建を可能とすべく与野党が編み出した3党合意は反故にされ、英国流のインナーキャビネットは財政再建ではなく、財政再建先送りに活用される始末だ。

最大の問題は、野党が体力を整える前に選挙を繰り返すことだ。首相への権力集中は期間限定で、本来、合理的な時間軸での権力競争が前提のはずだ。政権選択を実質的に封じる解散権行使は平成デモクラシーを切り崩しかねないという懸念を評者も共有する。