何カ月にもわたる繊細かつ困難な交渉を経て、北アイルランドの2大政治勢力(一方はカトリック系、もう一方はプロテスタント系)がベルファスト合意に署名し、30年以上に及ぶ流血と暴力が終結したのは、ちょうど20年前のことだ。だが、同合意と、それによって可能となった和平が今、脅威にさらされている。

ベルファスト合意では、住民の合意を得ることなく北アイルランドの地位変更を行いはしないこととされ、その限りにおいて北アイルランドの住民は英国、アイルランド、あるいはその両方の国籍を取得できるようになった。合意下では、和平を支援するべく、紛争当事者となったカトリックとプロテスタントの各勢力が共同運営する自治政府が作られた。

英国とアイルランドが共に欧州連合(EU)加盟国であったことから、合意成立後の手続きはスムーズに進んだ。アイルランド共和国と、英国の一部である北アイルランドとを隔てる国境は、単に地図上の線にすぎなかった。壁もなければ、税関も存在せず、どこまでがどちらの領土かを示す標章もない。モノもヒトも国境のあちら側とこちら側を自由に移動できた。