新井氏は「東ロボくん」の愛称で耳目を集めたAI(人工知能)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を主導した、AI研究のトップランナーだ。本書の前半では、東ロボくん開発の成果を基にAI研究の実態を詳しく解明し、近未来にAIにより約半数の労働力が代替される時代が到来する可能性が高く、またAIには原理的に「意味理解(読解力)」に限界があるため、巷間期待されているように、人間の能力を上回る汎用型のAIが完成したり、シンギュラリティが到来したりすることはありえないと断言している。

本書の後半では、新井氏らが開発したリーディングスキルテスト(RST)を使った調査で判明した中高校生の教科書読解力の欠如の驚くべき実態を報告し、AIが不得意とする読解力を多くの人々が身に付けていなければ、近未来に到来するAI時代に大量の失業者が生まれる危険性があることに警鐘を鳴らしている。

対談はAIや読解力から、「数学と神様」の話へと及んだ。

共にクリスチャンである二人は初対面。だが、冒頭から話がかみ合った(撮影:大澤 誠)

佐藤:私が新井先生に注目したのは、実はこの本が最初ではなかったんです。先生が委員をしておられる内閣府の諮問会議「2030年 展望と改革タスクフォース」の議事録(2016年10月)を読んで驚いたんです。土星人についての話がとても興味深かった。私は元外交官で、今は作家や大学教師などをしていますが、本来の専門は神学です。土星人の話は神学者としての私の琴線に触れました。

「2030年 展望と改革タスクフォース」は文字どおり2030年を展望し、経済成長と財政健全化の両立を実現するために、フローが細る一方、ストックは豊かな日本社会を改革するための知恵を識者に求める会議。第1回会議で、〈近未来にシンギュラリティが到来し、革命的な社会の変化が訪れる〉と指摘したスパコン研究者の齊藤元章委員(2017年12月に詐欺容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に収監中)の発言に対し、新井氏は「シンギュラリティが来るかもしれないというのは『土星に生命がいるかもしれない』というのと同じ。土星に生命がいないことが証明されていないように、シンギュラリティが来ないことを今証明できるわけではない。しかし、土星人がいるかもしれないということを前提に国家の政策について検討するのはいかがなものか」と痛烈に批判した。

新井:あまりにもいいかげんなことをおっしゃるので、数学者として黙っていられなくなったんです。ほかの委員のみなさんは「お行儀がよい」ので、あそこまではおっしゃらないですけど。

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