米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ
米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(グレアム・アリソン 著・藤原朝子 訳・船橋洋一 序文/ダイヤモンド社/2000円+税/424ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Graham Allison●政治学者。米ハーバード大学ケネディ行政大学院初代学長。現在、同大学ベルファー科学・国際問題研究所所長。1940年生まれ。専門は政策決定論、核戦略論。レーガン政権からオバマ政権まで歴代米国国防長官の顧問を、クリントン政権では国防次官補を務めた。

歴史に学ぶと極めて危険だと論じる

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

明治維新後、勃興する日本は、アジア最大の清国と対戦、その後、ロシアとの戦争にも勝利した。同時期、欧州で台頭したドイツは、大国フランスとの戦争に勝利、その後、第1次世界大戦で英国に敗れる。

急膨張する新興国と覇権国との戦争は不可避なのか。

本書は、米国で歴代国防長官の顧問を40年近く務めた国際政治学の世界的大家が、歴史的視点から、米中戦争の危険性を警告したものだ。

前例は近代の日本やドイツだけではなかった。台頭するアテネと大国スパルタとの戦争を分析した古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが、覇権国とそれを脅かす新興国との危険な関係を浮き彫りにしていた。本書は、過去500年で16の類例を見出し、うち12のケースで「トゥキディデスの罠」に陥り、戦争に至ったことを示す。米中戦争が不可避とは結論しないが、歴史に学ぶと極めて危険だと論じる。

分析によると当事国が自らの意思で戦争による決着を選択するのはまれで、同盟国の不測の行動などをきっかけに、両国は戦争を余儀なくされる。サプライチェーンで経済が深く結びつく現在の米中と同様、20世紀初頭の英独の相互依存関係は深く、誰もが戦争はあり得ないと考えていたが、第1次世界大戦は勃発した。

現在も東シナ海や南シナ海で、米国の同盟国と中国との紛争がきっかけとなるリスクがある。また、最大の懸念は、北朝鮮の核保有を巡る米朝間の突発的紛争が米中衝突の引き金となることだろう。

戦争回避で参考になるのは、19世紀後半以降、米国の経済力が急拡大した際に覇権国だった英国が西半球から自ら手を引いたケースだ。問題は、過去100年にわたり覇権国だった米国が中国との逆転を受け入れるかだ。米国は、戦後、民主化を進めた日本やドイツに中国も続くべきと考えるが、中国は歴史的にも権威主義的傾向が強い。習近平主席の下で、「偉大な中華民族の復興」を掲げ、むしろハンチントン流の文明の衝突のリスクが高まっている。

もう一つ参考になる類例は、戦後の米ソの冷戦で、キューバ危機など深刻な事態に何度か直面しつつも、戦争は回避された。指導者の力量が大きいが、米大統領に多くを期待できるだろうか。

中国の膨張を考えると、日本にとり米国との同盟強化は重要だ。ただ、同盟には二面性がある。戦争に至ったケースでは、それを煽る勢力が同盟国に現れた点を我々は警戒する必要があるだろう。