国家の危機管理
国家の危機管理(森本 敏、浜谷英博 著/海竜社/3200円+税/472ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
もりもと・さとし●拓殖大学総長、防衛相政策参与。1941年生まれ。防衛大学校卒業後、防衛庁入庁。79年外務省入省。一貫して安全保障の実務を担当。2012年防衛相。
はまや・ひでひろ●防衛法学会副理事長。1949年生まれ。国士舘大学教授、松阪大学教授、同大学図書館長、同大学大学院研究科長などを歴任。専攻は憲法、比較憲法、防衛法。

一時的な私権制限や人権制約の必要性を説く

評者 東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望

現代社会にはさまざまなリスクが存在し、私たちは、日々、そうしたリスクに対応しながら生活していかなければならない。地震などの自然災害だけでなく、最近は核の脅威やテロなどのリスクも高まっている。だが、著者らは、こうしたリスクに対して「わが国の危機管理」は、国家レベルでも、個人レベルでもうまく機能していないと指摘する。

その理由として「日本は、重大な海外からの侵略・占領を受けた経験が少なかったので、身の回りの危機を感じないで生きてきた。その結果が、日本の危機管理の手立てを非常に緩慢なものにしてきた」と指摘。また危機管理を理解するためには「リスク」と「クライシス」の語義の違いを理解する必要があると説く。

さらに国民の間に「危機管理という名目で個人の自由・権利を束縛することに消極的な発想が強く、国民全体のために何をなすべきかというより、個人生活のルール・個人裁量・権利・自由を拘束されることを嫌う個人主義的・利己的な発想が強い」ため、危機管理の法制や機構作りが難しいと主張する。

本書は、そうした発想を批判し、危機的事態に際して「国家の機能と民主社会を回復させるために、目的を限定した一時的な私権制限や人権制約」の必要性を説く。さらに「憲法の中に緊急事態の条項を入れることによって危機管理がどのように変わるのか」について詳細な議論を行っている。その主張は極めて刺激的で示唆に富む内容だ。

また、本書の最大の特徴は、現行の危機管理に関するさまざまな法律がどのような経緯で制定されたかを、具体的な危機の事例を踏まえて詳細に記述していることだ。

本書は、法律の門外漢にとっても極めて貴重な情報を提供している。たとえば、「災害対策基本法」は伊勢湾台風の経験を踏まえて制定され、北朝鮮の脅威の増大などに対応して「周辺事態法」や「武力攻撃事態対処法」が制定されている。さらに国際情勢の緊張に伴って「平和安全法制」が成立している。その結果、非常に多くの法律が制定されている。国家危機の管理や法制に関心のある読者にとって必読の本である。

危機に備える体制作りは重要であるが、どの程度の備えが必要かはリスク評価によって異なる。著者もリスクを正確に評価する「インテリジェンス」の重要さを指摘しているが、評者はその不足こそが日本の危機管理の最大の問題ではないかと感じている。