さとう・まさる●作家・元外務省主任分析官。1985年同志社大学大学院神学研究科修了。『自壊する帝国』『ファシズムの正体』をはじめ著書多数。(撮影:今井康一)

地政学とは、結論から言えば、論理的に理解できない学問だ。「マルクス主義とは何か」「キリスト教とは何か」と質問されても、これらは極めて広範囲な傘を持っていて、明確な定義ができない。地政学もこれと同じだ。

たとえばマルクス主義は、北朝鮮の主体(チュチェ)思想や中国の毛沢東主義、スターリン主義、ユーロコミュニズムなどさまざまだ。キリスト教もカトリックや正教、プロテスタントがあるし、さらにそれ以外にもたくさんの宗派がある。こういったものは定義ができない。しかし「マルクス主義だ」「キリスト教だ」と暫定的な定義を与えないと、理解が進まない。

人間というのは複合的なアイデンティティを持っている。そのアイデンティティを統合するには、「観念」が必要になる。それが首尾一貫しているからイデオロギーになる。たとえば、仮想通貨であるビットコインが現れる前提として、商品経済がすでに成立し、貨幣によって必要な物資を得るというシステムが必要で、これがないと成立しない。貨幣というものが一つのイデオロギーであるためだ。

イデオロギーが一つの時代を支配することがある。その点で、地政学=外交・軍事的なものと暫定的な定義をしてみよう。では、その地政学はどうして生まれるのか。それは、既存の外交・軍事を保証するイデオロギーが崩れるときに出現し、時代を支配する。

日本での地政学では「政」に重きが置かれる。だが、地政学の本質は「地」のほうだ。地理は変化しにくい。既存のイデオロギーが機能しなくなると、人間は最も変化しづらい「地理」を土台にしてイデオロギーを新たに構築するという誘惑に駆られるのだ。

イデオロギーのパラダイム転換