みやけ・くにひこ●1953年生まれ。東京大学法学部卒。外務省中東アフリカ局参事官などを経る。『「力の大真空」が世界史を変える』『語られざる中国の結末』など。(撮影:梅谷秀司)

最近、「地政学リスク」という言葉をよく目にする。複雑な国際情勢に出くわすと「地政学リスク」という言葉を、エコノミストなどの識者が多用しているためだ。たとえば、「英国がEUを離脱すれば、地政学上深刻な衝撃が走り、単一通貨ユーロの行方に再び疑念が生じる」という解説だ。

だがそれは、経済合理性で説明できない問題を「地政学リスク」という言葉で安易に言い換えているにすぎない。日本にとって身近である北朝鮮情勢に対して「地政学リスク」と言うことが多いが、北朝鮮のリスクは核兵器開発・保有とその拡散であり、はっきりとリスク要因を説明できる。

筆者が考える地政学とは、「ある国や地域をめぐる国際安全保障情勢や国家間の力関係を相互の地理的関係に着目して解き明かそうとする知的努力の総称」だ。そして、ある地域において力や権力がどのような形で流れていくか。歴史的にも、それは「権力がない」ところに流れていく。権力が失われた「権力の真空地帯」へ流れ、そこで力がぶつかり、混乱が生じるということだ。

したがって、個々の地域や国、民族の動きを正確に見ていかないといけない。地政学という語で簡単にくくれる一般的な理論はないと考えたほうがいい。