例外時代
例外時代(マルク・レヴィンソン 著/松本 裕 訳/みすず書房/3800円+税/368ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Marc Levinson●エコノミスト、歴史家。専門はビジネスと金融。英『エコノミスト』誌の経済学および金融エディターを務めた。ニューヨークの銀行でエコノミストとして勤務した後、米外交問題評議会で国際ビジネスのシニアフェロー。

先進国、新興国に重要な教訓を示唆

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

1950年前後から70年代前半まで、かつてない高成長が先進各国で観測された。フランス人は「栄光の30年」、イギリス人は「黄金時代」、ドイツ人は「経済の奇跡」と呼んだ。最も高い成長を経験した日本人は、控え目に「高度成長期」と名付けた。高成長は73年に突然終わりを告げ、各国とも高成長を取り戻そうと、需要刺激や規制緩和など、ありとあらゆる政策が70年代、80年代に試みられる。

本書は、戦後の高成長がむしろ例外で、各国の成長率が低下したのは常態に戻ったからだと論じる。信頼の厚い熟練の経済ジャーナリストが優れた戦後世界経済史を著した。

戦争で破壊された資本の再蓄積、低生産性部門から高生産性部門への労働移動、大戦下で実用された軍事技術の民生移転、戦後のベビーブームによる人口増など、様々な要因が重なり、例外的な高成長時代が訪れた。

しかし、20年以上も続くと、皆それが常態と考える。高成長の継続を前提に、大幅な財政赤字をもたらす大盤振る舞いの社会保障制度を各国が構築したのもこの頃だ。高成長の終焉にもかかわらず、一時的な落ち込みと誤認し、各国は追加財政や金融緩和を繰り返す。70年代に世界的な高インフレが訪れたのは、オイルショックの到来だけが原因ではなく、無理な刺激策を各国が続けたからだ。

需要刺激では解決にならないとして登場したのが、70年代末のレーガン・サッチャー革命だった。小さい政府を目指したはずが、防衛費増大で、亜流ケインズ政策に堕す。結局、均(なら)してみると成長は全く回復せず、一方で所得分配を弱化させたから、経済格差は拡大した。本書は市場主義にも介入主義にも中立的だが、興味深いのは高成長期は米英ですら介入主義的政策が取られていた点だ。レーガン・サッチャーは市場主義で対応し、フランスやスペインは国有化など介入主義で対応したが、いずれも失敗に終わる。

我々は本書から二つの重要な教訓を得る。成長を高めるため、市場重視の政策は必要だろうが、未だ確実な方策はわかっていない。先進国にとり喫緊の課題は、現在の低い成長率の下でも持続可能な、社会保障制度や財政制度を構築することだろう。成長回復で問題解決を試みると、当時のように問題をこじらせる。中国やインドなど新興国への教訓は、高成長時代が終わった際に高成長継続の幻想に囚われた、先進国の過ちを繰り返さないことである。