あの日、艦は稚内の沖合、サハリンが目の前の宗谷海峡に浮かんでいた──。

深夜、こちらは停止して漂泊状態、相手の船のことは1時間以上前からレーダーで探知していた。レーダーの情報を分析し、測的(相手の針路・速力を算出すること)した結果、衝突コースにあることはわかっていた。

しかし、航海長だった私は放置していた。こう書くと、私の頭がおかしくなっていたかのように思われるかもしれないが、海の上ではよくあることである。相手との距離が遠いときに衝突コースと判定されても、距離が近づき測的の精度が上がってくると、十分な距離を保ってかわせるという算出結果に変わることがしばしばある。

見渡すかぎりの大海原で、停まっている自分の艦を点とするなら、航海している相手の船は線である。その点と線がピッタリ重なることなど、そうそう発生するものではない。