シンプルな政府:“規制"をいかにデザインするか
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Cass R. Sunstein●米ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、行政法、環境法。1954年生まれ。米オバマ政権第1期では、大統領府の行政管理予算局下に置かれる情報・規制問題室の室長を務めた。法学と行動経済学にまたがる領域から、多数の著作を執筆。

科学的根拠に基づいた政策手法を見習うべき

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

米オバマ政権では、経済学の最新の知見を用い、規制が導入されていた。その際、わかりやすい言葉を用い、官僚主義的で煩雑な手続きを削除し、正当な理由なく費用を要するものは取り除き、シンプルな政府を目標としていた。

本書は、オバマ政権の行政管理予算局情報・規制問題室のヘッドとして、3年間にわたり各省庁が作る規制を監督した法学者のエッセーだ。元々、ハーバード大学のスター憲法学者で、経済学と法学の隣接分野での研究も多数あり、ノーベル経済学賞を2017年に受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授と共に、『実践行動経済学』を著したことでも知られる。その著作でも注目された「ナッジ」という考え方をもとに、改革の大なたを振るった。

伝統的な経済学とは異なり、必ずしも人間は合理的行動を取らないというのが、著者が依拠する行動経済学だ。ただ、規制が必要でも、強制では新たな抜け道探しを人々に促すだけに終わるかもしれない。金銭的動機付けでの解決は、資源配分の歪みを生むリスクがある。もともとナッジは「ひじで軽くつつく」という意味だが、強制や金銭的動機付けではなく、自主性を重んじ、選択の自由を確保した上で、望ましい選択に人々を導く工夫のことだ。

ナッジ実践の核となるのは、初期設定の変更で人々の行動を変化させることだ。たとえば、引退後に備え貯蓄が必要だとわかっていても、申し込み手続きの煩雑さや、目先の自由になるお金が減ることを言い訳に、積立年金への加入を見送る人が少なくない。そこで従業員があえて非加入を選択しない限り、自動加入となる制度に変更すれば、加入が増加する。初期設定の変更という単純かつコストの低い施策で経済厚生の改善を狙う。

右派からは大きな政府、左派からは小さな政府と批判されるが、目指すはドグマに左右されない、国民の役に立つシンプルな政府である。

著者が重視したもう一つの手法が「マネーボール」方式だ。大リーグで低予算の野球チームがデータ分析を駆使して躍進する姿を描き、ブラット・ピット出演の映画化でも話題となったマイケル・ルイスのノンフィクションからの命名だが、費用と効果を金銭的に分析することで、規制導入の際の検討材料とした。

日本では、象徴的事件をきっかけに、客観的分析のないまま政策を導入することが少なくない。科学的根拠に基づいた政策手法を見習うべきだ。