60万人超の大規模難民が発生したロヒンギャ問題。ミャンマー国内の複雑な事情や問題が絡み、解決の糸口も見えない。

ねもと・けい●国際基督教大学教養学部卒、同大学院比較文化研究科博士後期課程中退。専攻はビルマ近現代史。『アウンサンスーチーのビルマ』『物語 ビルマの歴史』など著書多数。 (撮影:今井康一)

──なぜここまで大量の難民が発生したのでしょうか。

ロヒンギャはインド・ベンガル地方を起源とする人々で、ミャンマー国内のラカイン州に100万人超が住む。言葉はビルマ語とは違い、宗教もイスラム教だ。ミャンマー政府は彼らを民族として認めず、バングラデシュなどからの不法移民だとし、「ロヒンギャ」という名乗りも拒否して、抑圧を続けてきた。そして、昨年10月と今年8月下旬に起きたロヒンギャ武装組織による政府軍部隊への襲撃で、より問題が複雑化した。

──発生から3カ月超、難民数は増加しています。アウンサンスーチー国家顧問への批判が世界的に高まっています。

そうした批判は現実のミャンマー政治を理解していない。2011年以降、軍政から民政へ移行し始めたが、国会には軍人枠があるなど憲法上軍の影響力が強く、アウンサンスーチー氏の活動も制限を受ける。今でも軍はすきあらば権力を取り返そうと機会をうかがっている。彼女への批判が強まれば強まるほど、再び軍の介入を招く口実を与えかねない。

──人権問題だからこそ、民主化運動の指導者だった彼女主導の解決が期待されていませんか。

彼女は解決策を用意していた。彼女が昨年肝いりで組織した、コフィ・アナン元国連事務総長が委員長を務めた「ラカイン問題検討諮問委員会」が、今年8月に答申を出している。長期の居住実績があるロヒンギャに国籍を付与し、また国籍の規定に差別性が見られるミャンマー国籍法の再検討などを促すものだ。ベストな解決策ではないが、漸進的な解決につながる内容だといえる。

答申内容は、アウンサンスーチー氏が考えていたものと同じで、彼女はこれをテコにして現実的な打開策を提示しようとしたが、襲撃事件が起きてしまった。