【今週の眼】早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェロー
はやかわ・ひでお●1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。著書に『金融政策の「誤解」』。(撮影:梅谷秀司)

物価目標に関する日本銀行の物言いが変わってきた。以前は是が非でも2%を早期に達成すると強調することが多かったが、今は「単に物価を上昇させること」は目標ではないとして、よりバランスの取れた経済を重視するようになった。

企業の省力化投資などをポジティブにとらえる姿勢も目立つ。短期的には物価抑制に働くとしても、長期的には生産性向上=潜在成長力強化を通じて自然利子率を押し上げるからだ。粘り強く金融緩和を続ければ、いずれは物価上昇にもつながるというロジックだろう。

筆者としては、日銀が持久戦の姿勢を鮮明にし、経済の供給面を重視するようになった点を素直に評価したい。ただ、好景気でも金融緩和を継続することが潜在成長力を高めるという、時に「高圧経済論」と呼ばれる考え方を過度に信用しないほうがいいように思う。金融緩和の供給面への影響には正負の両面があるからだ。

第一に、省力化投資の回収期間は通常3〜5年程度だから、長期金利を強引に押し下げても、その効果は大きくない。省力化投資を促しているのは人手不足そのものだろう。伝統的に長期金利の影響が大きいとされるのは建設投資などだ。実際、マイナス金利導入後には空室率が上昇を続ける真っただ中で節税目的の貸家ブームが起きたが、これは潜在成長率の低下要因となったに違いない。

第二に、日銀も最近は意識し始めているが、超低金利の長期化は金融機関の収益力をむしばんでいく。その帰結は、金融機関のリスク負担能力を低下させて金融システムの安定性を損なうと同時に、金融仲介機能の低下によって実体経済の潜在成長率にもマイナスの影響を及ぼすと考えられる。