「あのとき、なぜ右奥へ進んだのですか?」
「……何を考えていたか思い出せません」
「では、何が見えていた?」
「正面に敵がいて、その直後に左端にいるもう一人の敵が見えて……」
「そのとき、何が頭をよぎった?」
これは、企業向けに行うワークショップ型の研修でチームワークビルディングを実施した際の、私と受講生のやり取りである。
このときは、数名のチームでトライを目指す、タックルなしのラグビーのようなゲームを行った。当研修ならではの特徴は、ワンプレーごとに徹底的な検証作業を行うことである。参加者全員がなぜそうしたか、自身の行動を説明する。また、どう動くべきだったのか、個人として、チームとして結論が出るまで検証を繰り返す。
最初は誰もが、なぜそのような行動をしたのか説明できない。覚えていないからだ。行動している以上、頭は使っているのだが、明確な判断をしていないため記憶として残らないのである。
それが、行動した理由をワンプレーごとに説明しなければならない状況に追い込まれると、徐々に明確な判断をし、記憶に残るようになっていく。ここまで来ると、かえりみるべき自分の思考過程がはっきりとしてくる。
最初のうちは、当然ながら失敗の連続である。全員がほかの参加者全員に自分の失敗の事実をさらし、原因とともにどうするべきだったのかを説明することになる。この時点での説明では、すべての行動の根拠になっているものは視覚情報のみだ。「右に敵が見えたので、危険だと考えて左に進んだ」というような説明になる。