ユニクロ潜入一年
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よこた・ますお●ジャーナリスト。1965年生まれ。物流業界紙「輸送経済」の編集長を経てフリーランスに。著書に『ユニクロ帝国の光と影』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』など。『ユニクロ帝国の光と影』をめぐっては、同社から出版社が訴えられたが勝訴が確定。

非正規を仕事漬けにする グローバル企業の実態

評者 中央大学文学部教授 山田昌弘

潜入取材の第一人者である横田増生氏が、戸籍名字を変えてまで、あのユニクロ(ファーストリテイリング)にアルバイトとして入社する。面白くないはずがない。採用面接では素性がばれないかとドキドキし、模範アルバイターとして働きながら取材を続け、最後には見つかって解雇されるまでの1年間を描いている。まるでスパイ小説を読んでいるようだ。

筆者が指摘する恒常的なサービス残業や少ない人員での無理な勤務体制などは、日本企業の問題点として以前から指摘されてきた。グローバル競争を勝ち抜くためにコストダウンを追求し、その最終的つけを発展途上国の下請け業者に押し付ける。業種を問わず、そうした企業行動には批判が絶えない。

興味深いのは、グローバル企業で合理的経営をうたうユニクロでも、同じことが起こっていることである。確かに、地域正社員の創設や、アルバイトに対する評価に基づく賃金支給や正社員への登用など、正社員と非正社員の垣根を小さくするシステムを作っている。その点は欧米的に見える。

しかしその働かせ方が日本的なのである。会社への帰属意識を訴え、経営の危機を喧伝し、従業員を仕事漬けにする。会社主義を、本来自由に働けるはずのアルバイトにまで拡大している。

ユニクロは比較的若い企業であり、労働組合がなく、正社員とアルバイトが混在しているため、日本的経営のよい点であった正社員の安心と助け合いの精神に欠けているようにも見える(あくまで筆者の観察に限られるが)。

日本企業では、正社員は新卒一括採用・終身雇用が原則、そして正社員と非正社員の大きな格差という構造は変わらない。その中で、ユニクロは非正社員も日本的経営に取り込むという大きな実験をやっているのではないかとも思えてくる。

あともう一点。私は2015年、香港に研究留学中、本書でも取材している反ユニクロ・デモに遭遇した。委託工場がある中国でのストライキやユニクロへの抗議デモは、労働組合のイニシアチブというより、国際的な人権NGO(非政府組織)によるものだ。中国や日本では、NGOやマスコミに頼らねばならないくらい労働者自身の連帯の力が弱くなっていることに、あらためて気づかされた。

消費者第一主義の中で労働者の未来を考えさせられる一冊である。