今年のノーベル文学賞の受賞が決まった英国人のカズオ・イシグロ氏。その邦訳を出しているのが早川書房だ。翻訳の目利きとしても知られる早川浩社長に聞いた。

──イシグロ氏の小説、8作品すべてが早川書房から出ています。12月10日にはノーベル文学賞の授賞式がありますね。
スウェーデン・ストックホルムでの授賞式に出席する予定だ。イシグロさんが受賞者の枠で招いてくれた。1989年に刊行された『日の名残り』を読んで感じるものがあり、すぐに翻訳権(版権)を得たいと思った。イシグロさんは小説家としてもちろんすばらしいが、人格的にも信義に厚く、温情がある。家族ぐるみのお付き合いが続いている。
──受賞決定後に増刷をしました。
8作品で110万部を増刷した。皆さんが買いやすいように全部文庫にしてある。販売は順調で、(売れ行きについて)心配も憂慮もまったくない。
──早川書房といえばミステリーやSFを中心に翻訳で有名です。
現在、年間270ないし280点ほど刊行しているが、このうち翻訳が7〜8割を占めている。この10年ほどは日本人作家も増やしている。創業者である父(早川清氏)の時代から日本人のオリジナルの作品、作家を見つけて育てようとしてきた。最近はとりわけそうした意識を持っている。
──ミステリー以外でも、マイクル・クライトン氏の『ジュラシック・パーク』、哲学者のマイケル・サンデル氏の著作など、話題作が多いです。
自分で読んで面白いと思ったものを出している。ワン・アンド・オンリーが社是。父は「猿まねするなよ。人のやっていることがよさそうだからとまねるのは絶対やめてくれ」と。それは私の体の中にDNAのようにある。おそらく息子(早川淳・副社長)も同じだろう。うちはミステリーが有名だが、全体の中でミステリーをどのくらいの比率にしようとかの目安は特にない。ミステリーや文芸以外に経営、哲学、ポピュラーサイエンス、歴史、児童書にも力を入れている。