中国の人民元も昨年SDR(特別引出権、国際通貨基金の国際準備資産)の仲間入りをし、いよいよ国際化に向けて船出した。その1元以上の紙幣はいずれも、毛沢東の肖像が入っている。あらためて気づいて、おや、と思った。筆者がはじめて中国に行き人民元を手にした三十数年前は、確かちがっていたはずだからである。

FECとRMBの時代

当時の人民元は、二種あった。われわれ外国人旅行者は、外貨兌換券(FEC、Foreign Exchange Certificate)をもたされる。当時外国為替銀行だった中国銀行の発行である。デザインはたとえば、万里の長城だった。それに対し、国内の中国人は中国人民銀行発行の人民幣(RMB、Renminbi)を使う。こちらのほうは、農民や労働者の顔が描かれていた。

両者の額面は、等価という建前である。しかし現実には、そんなはずはない。その比価は時と場所によってまちまち、手持ちのFECをブラック・マーケットで2倍近くのRMBに交換したときもある。しかも英国の植民地だった香港の香港ドルも、中国内地で同じように交換して使えていた。

要は、同じ国内で複数の通貨・相場がある、という世界だったのである。日本円の普通の使い方しか知らなかった世間知らずの学生には、大きな驚きだった。

時を経て、FECはなくなった。今やFECを知らない中国人のほうが多いだろう。1995年、RMBに一本化し、そこにまもなく中華人民共和国の建国者・毛沢東の肖像を刷りこんだのは、中国共産党のいわゆる「一つの中国」を象徴させたようにも思える。

通貨に元首の顔を描くのは、ローマ帝国を承継した西欧の方法である。イギリスでは1ポンド金貨を「ソブリンSovereign」といって、まさに君主・主権を表象した。その金貨や銀貨の価値を国家が保証するという意味である。それを信じて使う人々は、その臣民・国民にほかならない。その慣例は金貨・銀貨が姿を消した紙幣の時代、現代でも変わっておらず、元首の肖像を有する通貨が、国民国家・国民経済の根幹にある。