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メタボぎみのAさんは、シェイプアップするために自宅近くにあるスポーツジムに昨年入会した。ジムの毎月の会費は1万円。「しっかり元を取るぞ」と当初は頻繁に通って汗を流したAさんだったが、2〜3カ月経つと足が遠のき始め、この半年は月に1〜2回通った程度にすぎない。

これで毎月1万円を払い続けるのは合理的ではない。当然、妻からは「行きもしないんだから、退会しなさいよ。おカネを捨ててるようなもんじゃない」と言われるのだが、Aさんはこう反論するのだった。「毎月、高い会費を払ってきたんだから、今さらやめるのはもったいないよ」。

Aさんのように、過去に支払った費用を考慮するあまり、合理的な判断ができなくなる心理状態を経済学ではサンクコスト効果と呼ぶ。サンクコストとは、すでに支払って戻ってこないコスト(おカネや労力、時間)のことで、「埋没費用」とも称される。

「つまらない映画だとすぐにわかったが、払った映画代がもったいないので我慢して最後まで見続けた」「太ってサイズが合わなくなったのに、昔大金をはたいて買った高級ジャケットを無理して着ている」などなど。日常生活でよくあるこうした話も、サンクコスト効果による行動といっていい。

実は、企業経営においても同様の事例は数多くある。ここでは、ある老舗化学メーカーの投資失敗例を紹介しよう。この会社は10年近く前、太陽電池パネルの原料製造に本格参入するため、巨大な新工場の建設を決定。投資金額は2000億円規模にも及び、まさに同社の社運を懸けた一大プロジェクトだった。

計画を撤回すれば損失は少なくて済んだ