経済学界の異端児だったが、2015年には全米経済学会の会長を務めた(ロイター/アフロ)

「賞金はできるだけ非合理的に使う」。2017年のノーベル経済学賞に選ばれた米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授は受賞直後の10月上旬、米国紙に対しそう語った。

セイラー氏が行動経済学の概念の1つとして提唱する「心の会計(メンタルアカウンティング)」は、汗水垂らして稼いだおカネは大事に使うのに、同じ額でもあぶく銭なら浪費するという損得勘定に合わない人間の行動を説明している。今回の賞金900万クローナ(約1億2500万円)があぶく銭とは言わないだろうが、この分野の第一人者らしいウィットを込めた言葉だ。

行動経済学や行動ファイナンスと呼ばれる、人間の経済行動の非合理的な側面を説明する分野では、過去に3人のノーベル賞学者が出た。1人目はハーバート・サイモン氏(受賞=1978年)。複雑な問題を解決する際の人間の認知能力の限界を、「限定合理性」という概念で説明した。

2人目のダニエル・カーネマン氏(同02年)は、「プロスペクト理論」を提唱した行動経済学の始祖。ロバート・シラー氏(同13年)は、株や住宅などの市場で合理性を外れた価格高騰が起きる仕組みを、投資家心理に基づき説明。行動ファイナンスのパイオニアと呼ばれている。

セイラー氏にとって、カーネマン氏は薫陶を受けた恩師、シラー氏は共にこの分野を開拓してきた同志。両氏が受賞したタイミングで、セイラー氏も同時受賞できる可能性がそれぞれあった。だが2回とも逃したため、「セイラー氏の行動経済学に対する学問的貢献度が、相対的に低いから」と解釈する向きも経済学界にはあった。

それが今回、単独受賞という栄誉を獲得。英『エコノミスト』誌(電子版)は受賞後の第一報で、セイラー氏を「ナッジの創始者」と紹介している。前出記事『米英発のナッジが世界に波及』で伝えたように、人間の行動にある系統的なバイアス(偏り)を逆手に取って望ましい方向に行動を促すナッジは、学問の範囲にとどまらず、欧米各国に新たな政策アプローチをもたらした。実社会への貢献度は大きい。

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