行動経済学は人間を「意思決定能力が限られ、失敗を繰り返す『限定合理的』な存在」と考える。この理解に立って生まれた、行動を改善する“魔法”が「ナッジ」だ。ナッジは米シカゴ大学の行動経済学者、リチャード・セイラー氏と米ハーバード大学の法学者のキャス・サンスティーン氏が提唱した。本来は「ひじで突っつく」という意味で、人が何かを選択する際、よりよい選択につながるよう促す工夫だ。

セイラー教授のナッジに関する著書(共著)

ナッジが最も効果を発揮したケースが臓器移植への同意だ。同意の認定には二つの方式がある。一つは死亡した人が生前、臓器移植に同意すると意思表示している場合に限り、その臓器を摘出できる「オプトイン方式」。もう一つは、生前に反対意思を表示していない場合に摘出できる「オプトアウト方式」だ。日本はオプトイン方式を採用している。

人間が合理的に行動する存在ならば、オプトインでもオプトアウトでも結果は同じになるはずだ。しかし実際には、デフォルト(選択肢の初期値)の回答をオプトイン=「同意しない」にするか、オプトアウト=「同意する」にするかで、結果に大きな差が表れることが知られている。

たとえば欧州諸国では、デンマーク、ドイツ、英国、オランダがオプトインを採用している。これらの国では、同意率は4〜28%と低水準にとどまっている。他方、オプトアウトを採用しているスウェーデン、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、フランス、ハンガリー、オーストリアでは、同意率は86〜100%と極めて高水準に上っている。

震災後の日本で行われた実験