高い成功率をうたい急成長を遂げた、会員制ダイエットジムのRIZAP(ライザップ)。同グループの瀬戸健社長と、行動経済学会常任理事を務める大竹文雄・大阪大学教授の対談を通じて、人間の心理を解明する。

(撮影:今井康一)

──ライザップのメソッドは、糖質制限による食生活の改善と筋トレが柱。ダイエットの正攻法ですが普通は続きません。なぜ効果が出るのでしょうか。

瀬戸 秘密はゴール設定にあります。どうしてやせたいのか。健康になりたいのか、美しくなりたいのか。それはどんな体なのか。会員とトレーナーで最初にしっかりコミュニケーションをして、ゴールのイメージを固める。ここから始まるのです。

せと・たけし●1978年生まれ。大学中退後に健康食品などの通販・健康コーポレーションを設立し、2006年株式上場。12年開始のダイエットジム事業が大成功し、女性用体型補正下着や衣料など企業買収も積極的に進めている。(撮影:今井康一)

やせるという将来の目標があるのについ食べてしまうのは、目標が遠くにぼやけているからです。食欲は誰もが持っている本能ですが、なりたい自分のイメージは千差万別。しかもイメージが意識上に顕在化しておらず、漠然としていることが珍しくない。子どもの頃から体型がコンプレックスで、この問題から目を背けてきた人もいます。そういう会員になりたい自分をどれだけ具体的に描いてもらうか。目標をよりリアルに、わくわくするイメージに落とし込んでいけるかどうかが、結果を左右します。

大竹 行動経済学では、一人の人間の中に2種類の自分がいると考えます。一人は、遠い未来の問題について合理的に判断し、我慢強く意思決定できる自分。たとえば1年後に1万円もらうのと、1年と1週間後に1万0100円もらうのとではどちらがいいかと聞くと、多くの人は1万0100円を選ぶ。

ところが今日1万円か、1週間後に1万0100円かと言われると、多くの人は1万円を選ぶ。これがもう一人の自分です。このように時間のスパンによって、一人の中で意思決定の基準が逆転することを、行動経済学では「現在バイアス」と呼びます。目前の報酬を大きく感じる心理的な偏りです。

おおたけ・ふみお●1961年生まれ。専門は労働経済学と行動経済学。大阪大学社会経済研究所教授、同研究所附属行動経済学研究センター長を兼ねる。『日本の不平等』『競争と公平感』『経済学的思考のセンス』など著書多数。(撮影:今井康一)

目標を明確にすることはこの現在バイアスに対し、報酬をより大きく見せる働きがあります。たとえば2カ月で5kgやせることは、数値目標だけでは1万0100円ぐらいの報酬感だったのを、リアルに目標達成値をイメージすることで1万5000円ぐらいの価値があるように見せるわけです。報酬が大きければ人間はより我慢強くなれます。

行動経済学を応用した、人間を動かす=行動変容させる手法はいくつかあります。中でも代表的なのが、何らかの目標設定の基準=参照点を設定するというものです。その参照点を下回ると人は大きな損失感を覚えます。たとえば節電を促すときに、ご近所の節電量と比べて「あなたは電力を無駄遣いしている」と示すと効果があります。この場合は、ご近所の節電量=参照点ですね。こういう仕組みは、ライザップにもあるのでしょうか。

「太っていて損した」が大きな反響呼ぶ