53歳となった今でも、私は普通の人に比べると山の中や海の中などの屋外にいることが多い。現役の特殊部隊員の頃は、毎日、ほとんどの時間がそうだった。屋外にいるとつくづく感じるのは、人間の脆弱さである。

人間以外の生物は衣服なんか身に着けない。人間だけが、シャツだ、フリースだ、ジャンパーだと着込む。そのくせ、汗をかいたり雨で濡れたりした後に風でも吹いて体温が著しく低下すると、30分で低体温症で死に至る。

特殊部隊員は、自然を味方にするすべを体得するため自然の中で多くの時間を過ごす。特殊戦は人が決して勝てない自然の中で繰り広げられる戦いだからである。

自然の中での訓練中、私は過去2回、部隊全滅を覚悟した。いずれも人里を遠く離れた山中での低体温症だった。最初の事案は、私が陸上自衛隊のレンジャー課程を終えてまもない頃で、山中における経験が浅く、ほかの隊員に至ってはほとんどない時期だった。

訓練はとある島にて、夕刻から翌朝まで行う予定だった。季節は晩夏、天候は快晴、降雨の可能性は皆無と予察して服装や荷物の準備を行っていた。

夜間に絶対に人がいない山に入ることで、隊員は訓練開始前から童心に帰ったようになっていた。私は、その浮かれた雰囲気をかき消すために、本来は絶対にやってはいけない、想定の変更を行った。降雨の可能性は皆無という大前提を覆し、天候の急変という想定を隊員のチーフに出し、私も含め全員が全身ずぶ濡れになるまで放水させたのである。ルール違反の想定変更への怒りで、隊員たちの気持ちは引き締まった。

隊員にすべてを白状