人口減少と社会保障 - 孤立と縮小を乗り越える (中公新書)
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やまさき・しろう●1954年生まれ。東京大学法学部卒業後、厚生省入省。厚生省高齢者介護対策本部次長、内閣府政策統括官、首相秘書官、厚生労働省社会・援護局長などを歴任し、地方創生総括官を務めた。その間、介護保険に立案から施行までかかわった。

全世代型の制度への転換の必要性を説く

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

婚姻率と出生率の急低下が始まったのは、1970年代前半だ。ただ、その段階で現在予想されている急激な人口減少の到来が不可避となったわけではない。90年代後半以降の経済・社会の変化に、社会制度が対応できなかったことが、少子高齢化を助長した。

たとえば、企業は新興国企業との競争に対応すべく、コストの安い非正規雇用を大量に増やした。そのことは、教育訓練や生活保障の乏しい労働者の増大を意味したが、割を食ったのは団塊ジュニアだった。影響は、その後の結婚や出産にも及び、晩婚化や非婚化の一段の強まりで、第3次ベビーブームの到来が完全に抑え込まれたのだ。

本書は、元厚生官僚が、高齢者向けを中心とする現在の社会保障制度の限界と全世代型の制度への転換の必要性を説得的に論じたものだ。対象の拡大には慎重であるべきだが、家族形態や働き方が変われば、国が対応すべきリスクも変わる。子育てと就業の両立を国がサポートすることは、生産性向上とともに、少子化に歯止めをかけ、社会保障制度の持続性回復にもつながる。

時代の要請として導入は不可欠であり、赤字国債増発で対応するのではなく、安定財源が必要なことを、政治家は逃げずに国民に訴えるべきだ。本書では、社会保険での対応の可能性を探る。

現在の日本と同様、かつては多くの先進国でも女性の就業と出産には二律背反の関係が見られた。しかし、フランスやスウェーデンなどでは、両立のための包括的な施策が取られ、今では女性の就業率が高い国ほど出生率が高い。ただ、成功の鍵は男性の働き方の変化にあり、単に国がお金を出せば問題が解決するわけではないだろう。

出生率の引き上げに成功しても、安定まで数十年の長い年月にわたり人口減少が続くため、その間の対応が重要という。大都市では高齢者の増加が続くが、地方都市は頭打ちで、過疎地域では既に減少が始まっている。地域の実情に応じた対応策が必要だ。

既存の社会保障も財政赤字で賄う状況で、現役世代をサポートする余裕は残っていないと疑う人も多いだろう。唯一の解決策は、世代を問わず困窮する人をサポートし、高齢者であってもゆとりのある人はサポートする側に回るという、社会保障の本来の理念に回帰することではないか。世代間の助け合いを軽減し、世代内の助け合いを強化しなければ、現役世代が疲弊し、既存の制度の存続も危うい。