近所のコンビニで買い物したらキャッシャーに「元」という表示が出た。すぐ「円」に変わったので聞いてみた。「中国人もよく来るの?」。店員は「ええ、見えます」。へえと思った。ということは旅行中の中国人が間断なく立ち寄るということなのか、と思う。

同じことは最近“心の三畳間”に組み込んだ「一隆」という魚介料理店でも経験した。私はカウンター専門だが、背後に大きなテーブルが何台かある。先日予約客のはしや皿が並んでいたので、「今日は団体さん?」と聞くと、「いや中国の人。この近くに旅行者の世話をする人がいてね。今日はうちで和食の勉強だよ」と親爺さんが答える。「刺し身?」「いや煮魚の研究だね。キンメに関心がある」「ここの煮付けはおいしいからね」。

この店は親爺さんと息子夫婦が店に立ち、勤続25年を超える料理人(とてもそんな年齢には見えない)ほかが働いている。親爺さんも息子も酒は飲まない。朝早くから築地に買い出しに行く。その日のお薦めは2メートルくらいの大短冊に大きな文字で掲げられる。

いちばん高価なのはアワビのバター焼き。次は北海道産毛ガニ。馬糞ウニ、サーロインステーキ、ウナギの白焼き、鰻丼。刺し身はマグロ、タイ、白身の数々。貝も数々。全部大中小の短冊に書かれて壁に掲げられている。この迫力には圧倒される。親爺さんには人に関して好みがあるらしく、客によっては頼んでもいない秘蔵の品を出してくれる。それもそっとではなく堂々と。私は初入店の日からその栄に浴しているので、頼んだ品はテイクアウトになる。鰻丼など重箱でそのまま持ち帰る。

親爺さんはその日の気分でメニュー外の品も作る。たとえばギョーザ。「食う?」「頂戴。中国のお客さん用?」「いや、あの人たちは食べない。キンメだ」「煮付けの方法を学んでどうするの?」「今日の連中はみな上海の調理人。帰国して店で出すんじゃないかな」。

私がこの親爺さんに好感を持つのは、自分の腕と店の経営に確たる自信を持っているからだ。だから絶対におもねらない。中国だけでなく他国の客も来るそうだが、親爺さんの態度は変わらない。