企業経営論の名著として知られる『イノベーションのジレンマ』。その著者である米ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授に、本誌の前号特集(10月21日号「EVショック」)で取り上げた電気自動車(EV)と破壊的イノベーションとの関係について聞いた。

クレイトン・M・クリステンセン ハーバード・ビジネススクール教授 
Clayton M.Christensen●米ボストン コンサルティング グループなどを経て現職。「最も影響力のある経営思想家トップ50」の1位に2度選出。共著に『ジョブ理論―イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』。

Q そもそもイノベーションのジレンマとは?

まず伝えたいのは、イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があるということだ。

持続的イノベーションは、従来の自社の優れた製品を改良すること。これも重要だが、顧客は既存の製品を買い替えるだけなので、大きな成長にはつながりにくい。

一方、破壊的イノベーションとは、富裕層のみが買えた複雑で高価な製品を一変させることだ。その結果、価格が大幅に下がり、多くの人が製品を買えるようになる。

破壊的イノベーションは新たな顧客層を開拓し、将来的な収益拡大にもつながる。一方で従来の顧客層に受けず、当面は儲けが減るため、優良企業にとって、そうした製品の開発は至難の業だ。これが「イノベーターのジレンマ」である(注:原書の題名も『イノベーターのジレンマ』)。よりよい製品を顧客に提供しつつ、破壊的イノベーションを起こすには、別組織をつくって開発するしかない。

かつて破壊的イノベーションで発展した日本経済が1990年以降、長期低迷しているのは、このジレンマに陥っているからだ。韓国企業によって破壊された(半導体などの)電子製品や家電など、日本企業が「イノベーターのジレンマ」に陥った例を挙げたらきりがない。ここ数十年間で日本の破壊的イノベーションといえるのは、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」など、わずかしかない。