「はい、失格。君たちに単位は認定しない。もう一度、来年度に履修しなさい」

「本当ですか?」

「本当だ。もう帰っていい」

これは、私が日本体育大学1年次に目撃した教授と学生のやり取りである。日体大は保健体育の教員養成学校なので、体育種目の実技に関する授業が非常に多いのだが、「野球」の授業で単位認定のための実技試験が行われた際、極めて厳しいジャッジが下された。

野球の細かな技術、戦術、指導法を1年間も教わり、集大成となる試験は、教授がランダムに選んだ者同士で行うただのキャッチボール。ただし、それは100球中1球でも落としたら単位が認定されないという試験だった。たまたま指定された相手が簡単なボールをポロッと落とせば、自分の1年間の苦労も水泡に帰す。

教授の説明に学生全員が半信半疑だった。「実際は何らかの救済措置があるのだろう」と、高をくくっていた。すると、3組目のペアが、30球目あたりで落球し、本当に帰されてしまったのだ。その場の空気が瞬時に凍り付いた。

次の組からは、ボールの縫い目にしっかり指が引っ掛かるよう確認しながら、強くも弱くもなく、放物線ではなく直線の軌跡を描くギリギリのスピードで投球した。相手がいちばん捕りやすい球を慎重に投げ続けた。

たかがキャッチボールで、あそこまで真剣になることはそうあるものではない。今考えても、あの教授が学生に求めたことが、日体大の授業としてふさわしいのかは不明だ。が、真剣に慎重に、絶対にミスを犯さないためにあらゆる手段を尽くす、というありそうでなかなかない体験をさせてもらったことには感謝している。