
過大なリスクテイクの抑制にかかる
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
リーマンショック後に、誰もが想定したより早く、世界経済の回復が始まったのは中国が財政投融資策を発動し、GDP(国内総生産)の10%を超える高成長に回帰したからだ。しかし、ちょうど高度成長期が終わるタイミングだったため、無理な景気のかさ上げは、過剰ストックや過剰債務を生み、経済の大きな足かせとなった。
本書は、米国で長く研究を続けた中国人経済学者が、繰り返し生じる中国バブルの真因を探り、安定成長の条件を探ったものだ。
最大の問題は、世界金融危機の際、景気を急回復させるため、政府の暗黙の保証を強化したことだと論じる。破たんをさせないという暗黙の保証を信じ、国有銀行は返済を気にせず国有企業への融資を増やし、国有企業も生産能力を大幅に増強した。高度成長期が終わり、成長分野の発見に金融市場を活用すべきタイミングで、政府依存がより強化され、金融規律も失われた。
米誌『フォーチュン』が発表するトップ企業500社に、今では中国が100社を占めるが、規模が大きいだけで、利益率は極めて低い。今も国有企業が合併を繰り返すのは、大きくなれば政府が破たんさせないと期待するからか。
現在も景気対策として、インフラ投資が増強される。投資主体は地方政府だが、借り入れが基本的に禁じられるため、オフバランスのファンドを作り高めの金利で資金を集める。政府の暗黙の保証を信じ、国民も資金供給を続ける。

本来、金融規律が働けば、リターンに見合ったリスクしか取られない。しかし、政府が損をさせないと皆が確信するから、過大なリスクが取られ、それが不動産価格の大幅上昇や過大な設備投資につながってきた。
ただ、庶民に手が届かなくなるほど不動産価格が高騰し、政治的に不動産バブルを容認できなくなった。一方、不動産価格の下落が始まると、不動産の売却益を当て込んで借り入れを増やした地方政府のもくろみは瓦解しかねない。
ソフトランディングは、デフォルトの可能性を国民に認識させ、過大なリスクテイクを抑制することにかかっているという。その際、景気減速は必至だが、急減速を恐れ、政府は暗黙の保証を降ろせず、制御不能なリスクテイクが限界まで続くのか。
10月中旬に、今後5年間の最高指導部人事を決定する共産党大会が開催される。新体制でどのような方針が打ち出されるか、興味深い。