金融に未来はあるか―――ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実
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John Kay●英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員教授、英オックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジ・フェロー。1948年生まれ。英財政政策研究所ディレクター、企業の取締役を務めた後、証券市場改革案(ケイ・レビュー)の作成に携わった。大英帝国勲章受章。

金融目利き力の復活、資産管理の重要性を説く

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

金融業の本来の役割は、家計貯蓄を設備投資や住宅投資など新規の実物投資に仲介することだ。ただ、現在はそうした融資はわずかで、大半は不動産や住宅など既存資産の購入に充てられている。おまけに米英の大手金融業の主力業務はもはや融資ではなく、証券化された金融債権やデリバティブのトレーディングだ。

トレーディング業務に経営資源を割き、新たな付加価値創出につながる投資機会の掘り起こしを怠るから、各国の成長トレンドの回復が鈍いのではないか。本書は、財政金融の世界的な研究者があるべき金融業の姿を論じたものだ。

トレーディングに注力するのは、高収益と高ボーナスが可能になるからで、顧客にメリットがあるからではない。多大なリスクテイクが可能なのも、家計の預金を抱える金融業は潰さないという政府の暗黙の保証があるからだ。その結果、金融仲介業務の上部に複雑でリスクの高いトレーディング業務を組み込む歪(いびつ)な構造が生まれた。世界金融危機では、リスクに耐え切れず上部構造が崩壊、土台となる金融仲介業務も潰れかかった。

危機後、さまざまな規制が導入されたが、よそ様のおカネを使って荒稼ぎするトレーディング中心の根源的問題は是正されていない、と手厳しい。金融業は特別な存在ではなく、政府支援を要するのなら、他業態と同様、存続に値しないと断じる。

本書では、貯蓄の実物投資への仲介として、商業銀行の目利き力の復活を訴える。米英の金融機関がITを駆使しクレジットスコアリングで融資先を見いだそうとしたのは、結局、トレーディングに経営資源を割き、顧客密着型の融資担当者を削減するためだった。融資発掘のかなめは人間関係の中にあり、輸出力に秀でる中小企業の発掘で成功を収めるドイツの中小金融機関を見習うべきという。AI(人工知能)に期待するのは的外れだろう。

資産運用会社による既存資産の管理維持(スチュワードシップ)の重要性も説く。上場企業は資金が潤沢で、もはや株式市場からの資金調達で設備投資を行うことはない。ならば資産運用会社の役割は何か。適切な事業展開が行われているか、有能な後継者の育成がされているかを市場から監視することが役割であり、それこそがスチュワードシップの本質と論じる。

金融目利き力の復活やスチュワードシップの確立など、我が国の金融業の立て直しにも大いに参考となる一冊だ。