中国では実名登録がない電話番号はなくなった。写真は身分証とSIMカードを持つ中国移動の販売員(Imaginechina/アフロ)

中国で「実名制」が急速に広がっている。電話番号(SIMカード)や航空券、乗車券の購入などに加え、著名観光地入場にも実名登録の必要な場所が増えてきた。スマートフォンのGPS(全地球測位システム)での現在地捕捉、街角の監視カメラによる人物特定などと併せ、社会は事実上プライバシーのない時代に入りつつある。

今年10月1日、中国ではネット上の掲示板、SNSなどへの書き込みに実名認証を義務づける法律が施行される。誹謗中傷やデマの拡散、治安に悪影響があると当局が判断する発言などの監視が目的だ。画面上では従来どおりハンドルネームを使えるが、身分証番号による実名認証が必須になる。

また中国を代表する観光地の一つ、陝西省西安市の兵馬俑(よう)も同じく10月1日から入場券購入に身分証の提示と実名登録を求める。文化財の破壊・盗難や混雑時のダフ屋行為の防止などが狙いだ。中国ではすでに北京の故宮や四川省の景勝地・九寨溝(きゅうさいこう)などで実名制を実施しているが、今後こうした例はますます増えそうだ。

中国では2012年から鉄道チケットで実名制を全面実施、電話番号も13年秋から新規購入に実名登録を求めている。既存登録者の猶予期間も16年末ごろまでにほぼ終了、実名登録のない番号は停止措置が取られた。

そのほか長距離バスやホテルへの宿泊、ネットカフェの利用、銀行口座開設、宅配便の発送、ドローンの使用などにも実名登録が必要だ。10年の上海万博前後には一時「包丁購入実名制」まで議論され、庶民の失笑を買ったこともある。

とにかく中国社会は統一の身分証番号があらゆる行為と連結しており、頻繁に実名登録を求められる。身分証を携帯していないと身動きが取れない。そこに国家による思想・言論の統制や治安維持の狙いがあることは間違いない。そうした状況への不満を訴える声は知識層を中心にないわけではない。

しかし世論の大勢はこうした「監視社会」の形成に意外なほどに寛容だ。筆者が上海で周囲に聞いても「別に政治的な発言をするわけでもないし、自分は構わない。デマや詐欺などが減るほうがありがたい」という意見がほとんどだ。交通機関やホテルなどの実名制についても、日本に旅行に来る中国人たちからは逆に「日本の飛行機や列車は誰が乗っているかわからない。不安ではないのか」という声がある。