戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー
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あきもと・ちあき●RUSI Japan(英国王立防衛安全保障研究所アジア本部)所長。早稲田大学卒業、NHK入局。30年以上にわたり、軍事・安全保障専門の国際記者、解説委員を務めた。2012年から現職。大阪大学大学院で招聘教授なども務めている。著書に『アジア震撼』など。

「勢力争い」を超えた正統派地政学を提示

評者 東京外国語大学大学院教授 渡邊敬貴

評者は地政学分野の多くの邦語書籍はパワーポリティックス的な「勢力争い」を地政学と言い換えているに過ぎないと考えるが、本書はきちんと歴史的学説を踏まえて、各地域の戦略的重要性の相対化が行われている点で本格的な地政学の業績であるといえよう。評者は地政学とは、利害関心の異なるそれぞれの地域の戦略地図を整理し、相対化することであると思っているので、ようやくそのような「正統派地政学」の書物が出たことを喜びたい。

冒頭第1章の「地図から見える世界」は、太平洋の中の日本を真ん中に置く地図を見慣れている一般読者には目新しいのではないか。日本海を中心にした地図では日本列島は「日本海という湖」の中国や韓国の対岸になる。沖縄まで含む日本列島はまさに中国の海への道の「防波堤」でもある。新しい視点から世界を見る必要性が一目瞭然に理解できよう。

また本書ではランドパワー、シーパワーの視点からの地政学の古典の解説が要領よくされている。歴史的な学説にのっとっているだけに、米ロ中などの大国の地政学的な位置や戦略の歴史がよくわかる。

そして最大の特徴になっているのが日本の重要性を本格的に論じた点だ。戦前からの日本研究にも論及しており、あらためて大東亜共栄圏の議論も新鮮さをもって理解できるだろう。日本はシーパワーであり、その立場から日本の外交・安全保障政策は模索されるべきであるとし、日米同盟の発展についてより自覚的に理解しておくことを主張する。

その意味でも沖縄の重要性をあらためて著者は指摘する。ペリー提督来航時にすでに米国は沖縄の基地化を意図していた、という事実も歴史的実証によって説明している。

最後に日本の針路を考える際の、著者ならではの指摘はシーパワーの同盟としての日英同盟の重要性だ。実際に日英外務・防衛閣僚会合などを通して進み出している。こうした欧州主要国との連帯関係を日米同盟とリンクした「ネットワーク型の同盟」も構想する。それは「平和と安定の三角形」と著者が呼ぶ日米欧ユーラシアの地球規模の同盟体制の構築だ。汎太平洋同盟、汎大西洋同盟、汎ユーラシア同盟の三つの同盟の連携である。

地政学をグローバルな観点から展開した本書のスケールと新しい視点は、日本外交に関心を持つ読者が認識しておくべき主要点を網羅している。