週刊東洋経済 2017年9/16号
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過労死ライン超えが続出 教員の異常な勤務実態

中学校教諭の1.7人に1人、小学校教諭の3人に1人が「過労死ライン」(月80時間の残業)を超える長時間労働を強いられている──。

4月末に文部科学省が公表した2016年度の「教員勤務実態調査(速報値)」で、そんな衝撃的な事実が明らかになった。公立学校教員の勤務時間は週38時間45分と定められている。だが過労死ラインに相当する週60時間以上勤務(週20時間以上残業)した教諭は中学校で約6割、小学校で約3割に上る異常事態だ。教諭の1週間当たりの勤務時間は10年前と比べて約4〜5時間増えた。しかもこのデータには自宅に持ち帰った残業は含まれていない。

「休日もまったく休めない」「このまま働き続けると体が壊れてしまう」……。多くの教員から悲痛な声が上がる。

11年6月、大阪府堺市の市立中学校に勤務していた26歳の男性教員が自宅アパートで倒れて亡くなった。死因は虚血性心疾患だ。

男性教員がその学校に赴任したのは10年4月。1年目から担任を任されると、学級通信をほぼ毎週発行するなど熱心に取り組んだ。部活動では経験のないバレーボール部の顧問になった。平日や土日の指導に加え、同部員が記入する個人別のクラブノートに励ましや助言をびっしり記すなど、人格形成にも力を注いだ。

発症前6カ月間の時間外勤務は月60時間~70時間前後と過労死認定基準に届いていない。だが授業準備やテストの作成、採点など日常的に自宅に持ち帰って仕事をしていたことが考慮され、14年11月、地方公務員災害補償基金は過労死と認定した。

「業務量の多さや部活動が過重労働、過労死の温床になっている」と遺族の代理人で過労死問題に詳しい松丸正弁護士は警鐘を鳴らす。

イラスト:岡田航也

細かい仕事が多すぎて帰れない

長時間労働によって教員が過労死するというのは決して可能性の話ではない。現実に起こっていることなのだ。

「朝から晩まで学校にいますよ。忙しい理由ですか? 毎日いろいろやらなければならないことが本当に多い」

東京都内の公立中学校に勤務する40代の女性教員はそう話す。

彼女の出勤は毎朝8時前。打ち合わせや担任のクラスでの学級活動を済ませて授業に臨む。1時間目が始まるのは8時45分、6時間目が終わるのは15時20分だ。途中に昼休みはあるが、生徒の指導や授業の準備があって休めない。授業が終わった後は夕方の学級活動や掃除を行う。生徒が下校するのは16時ごろ。そこから職員会議や学年会、学校運営に関する会議などがあり、それが終わるのは17時ごろになる。

都の教員の勤務時間は8時15分~16時45分であるため、本来ならここで帰宅できるはずだが、実際にはかなり難しい。生徒は放課後、部活動にいそしんでいるからだ。

勤務する中学校では教員全員が顧問を割り当てられており、活動中は目を配らなければならない。部活動が終わるのは18時30分。この時点ですでに2時間弱の残業をしているが、仕事はまだ終わらない。というより教員が自分の業務にじっくり打ち込めるのは、実はこの時間からだ。

小テストの採点や翌日の授業の準備、資料の作成などを片付けていく。ここで保護者からの相談の電話があったり、保護者の帰宅が遅い家庭への連絡事項があったりすると、学校を出る時間はさらに後ろ倒しになる。

結局、学校を出るのは早くても20時以降だ。つまり1日12時間以上勤務しているのである。

中学校の教員は土曜日や日曜日もゆっくりとは休めない。運動部や吹奏楽部は練習していることが多いからだ。この女性教員は文化部の顧問で、土日は部活動を休みにしている。だが平日に処理しきれなかった業務を消化するために、出勤することが頻繁にある。

授業以外の仕事も重荷 残業代は出ない

中学校だけでなく小学校の教員もまた業務量は多い。部活動がない分、中学校より勤務時間は短いが、決して楽ではない。

「中学校の教員は自分の専門教科を教えればいいが、小学校は担任が全教科を教えるので、1時間目から6時間目まで空き時間がほとんどない。授業の準備にも時間がかかる」(ある小学校の教員)。小さい子どもたちの動向をつねに見ていなければならないので、トイレに行く時間が取れず膀胱(ぼうこう)炎になる教員もいるほどだ。

教員はなぜこんなに忙しいのか。大きな理由の一つは学習指導要領の改訂に伴う授業時数の増加だ。背景にあるのは「脱ゆとり」。文科省が、ゆとり教育によって減少した学習量を再び増やす方向に舵を切ったのだ。

ただしそれだけではない。小学校にも中学校にも共通するのは、授業以外の業務が多いこと。それはデータでも明らかだ。文科省の調査によると、小学校教諭と中学校教諭にとって負担感が最も大きい業務は「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」だった。「保護者・地域からの要望・苦情などへの対応」を上回っているのは、意外なところだ。

(注)教諭の従事率が50%以上の業務のうち、負担感率の高いものを抜粋。負担感率は負担感にかかる設問に対して「負担である」「どちらかと言えば負担である」と回答した数の合計の全有効回答数に対する割合 (出所)文部科学省「学校と教員の業務実態の把握に関する調査研究報告書」を基に本誌作成

「どこかの学校でいじめなどの問題が起こったらすぐに調査やアンケートが来る。簡単に終わるように思うかもしれないが、生徒によっては回答に時間がかかるし、集計は教員がやらなければならない。しかもそのアンケートがどう生かされたのかもよくわからない。本当に時間の無駄だ」。東北地方の中学校に勤める教員はそう憤る。

忙しい理由はほかにもある。

「若い先生たちは本当に大変だと思いますよ」

神奈川県の中学校に勤務する40代の教員は世代間における繁閑の差を指摘する。

「普通の会社であれば、経験を積むに従って任される仕事が変わっていきますよね。でも教員は、校長や副校長にならないかぎり、50代も20代もやっていることは基本的に同じです。特に若い独身の先生はプライベートの時間の都合をつけやすく体力もあるから、土日の部活動など何かと仕事を振られやすいし、断れない」(同)

前出の東京都の教員も言う。

「教員はベテランの50代が圧倒的に多くて、30代後半から40代前半の中堅が少ない。50代が大人数でやってきた仕事量を少ない人数でこなさないといけないわけだから、当然負担は重くなる。30代だけでは処理しきれず、じっくり育てないといけない20代にもシワ寄せが来ている」

弱まる家庭と地域の力 頼れるのは学校だけ