東京・青山に持ってきても通用する洗練された店内。しかし店舗前は泥濘(でいねい)の未舗装道路だ

「エチオピアを再訪したらおいしいコーヒーが飲みたい」。そう思っていた。

コーヒーの原産地ではないかと考えられているエチオピア。コーヒーの語源も南西部のカファ地方から来ているという説がある。

15年ほど前のことだった。エチオピア北部のラリベラを訪れたときのことだ。ラリベラは岩石をくりぬいた教会で知られるが、この日は郊外のアシェトン山へトレッキングをしていた。

山頂からラリベラの町を眼下に見下ろし、地平線の果てまでエチオピアの高原が広がる眺望に時を忘れる。町への帰り道、集落を抜けるとき、鮮やかな民族衣装の女性から「私の家でコーヒーセレモニーをしませんか」と誘われた。乾燥した標高3200メートルの山に登った後。のどを潤そうと民家におじゃまする。

民家はこの地方に特徴的な円錐状の茅葺(かやぶ)きで、トゥクルと呼ばれる。床は土でできており、面積は6畳ほど。電気や水道はない。

コーヒーセレモニーはカリオモンと呼ばれるエチオピアの習慣で、日本の茶道や中国の茶芸のコーヒー版である。まずは生のコーヒー豆を鉄製の円盤上で炒(い)り、木製のすり鉢ですり潰してから煮る。

待つこと数十分。狭い民家がコーヒーの香りで満たされた中、1杯目が出された。このときのコーヒーの味は今でも忘れられない。豆はおそらく高いものではないだろう。それでもひきたて、淹(い)れたてはうまい。きちんとした商売ではないらしく、金銭も要求されなかったので心付けを置いてきた。