石橋湛山:思想は人間活動の根本・動力なり (ミネルヴァ日本評伝選)
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ますだ・ひろし●立正大学石橋湛山研究センター長兼法学部特任教授。1947年生まれ。慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。東洋英和女学院大学教授などを経る。専門は日本政治外交史、外交論。著書に『石橋湛山研究──小日本主義者の国際認識』『自衛隊の誕生』など。

稀有な“湛山イズム”の真髄を解き明かす

評者 早稲田大学講師 上田美和

石橋湛山(1884〜1973年)は、没後40年以上を経た今日でも、日本史学や政治学といった、いわゆる学界内の研究対象にとどまらず、テレビ番組・新聞雑誌をはじめとする、マスコミ・ジャーナリズムの関心を引き続ける存在である。本書は、「ミネルヴァ日本評伝選」の一冊であり、45年の長きにわたり、石橋研究に携わる著者による最新版の伝記である。

伝記という性格上、本書は石橋の子ども時代から始まり、『週刊東洋経済』の前身である『東洋経済新報』のジャーナリスト時代、戦後政治家として内閣総理大臣にのぼり詰めるまでの政治過程、晩年にいたるまで、その一生を論じている。著者のこれまでの石橋研究と、石橋に関する基礎資料のみならず、関係者の証言、石橋湛山記念財団刊行の『自由思想』等、近年の雑誌掲載記事にも依拠している。

著者の問題意識は次のように明確である。第一に、石橋はなぜ透徹した歴史意識をもち得たのか。第二に、なぜ、将来の日本と世界を的確に予測できたのか。第三に、なぜ、「剛毅・叛骨・楽観・繊細・不屈・リベラル」という稀有な人格が形成されたのか。これらの観点から、石橋の生涯が解きほぐされていくのである。

以上の問いへの解答を、著者は“湛山イズム”と呼んでいる(終章)。それは次の4点に集約される。第一に自由主義と個人主義、第二に合理主義と現実主義、第三に実利主義と民主主義、第四に世界主義と平和主義である。

本書の結びに著者は、現代世界について「湛山が提唱する『世界連邦』の成立には程遠い混迷ぶり」と嘆きつつ、「単なる夢物語として片付けられない」と述べる。

21世紀の今日、石橋という存在から何を、どのように学ぶのか。それは各人によって多様であるし、またそれだけの間口と普遍性を提示しているところが石橋の魅力である。

近年、石橋について“学ぶ”ための環境は一段と整えられてきている。2013年に発足した「石橋湛山研究学会」は、狭義の研究者に限定せず、意欲ある人々に開かれた学会である。また、今年誕生したばかりの立正大学石橋湛山研究センターは、今後の石橋研究の拠点となることを目指している。

その両者を牽引する著者の手になる本書は、すでに石橋に関心をもっている人にはもちろんのこと、専門的でありながら、入門書として門外漢にも手にとりやすい、明快な叙述に貫かれた一冊である。