錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来
錬金術の終わり 貨幣、銀行、世界経済の未来(日本経済新聞出版社/496ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Mervyn King●英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスおよび米ニューヨーク大学の教授。2003〜13年に英イングランド銀行総裁を務めた。13年一代貴族「ロスベリーのキング男爵」、さらに14年ガーター勲章士に叙せられる。英貴族院議員。

二度と金融危機は起こさずに済むのか

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

金融危機の際は、十分な担保と金利を取ったうえで中央銀行が民間銀行に潤沢な資金を供給する。「最後の貸し手」論の嚆矢となったバジョットルールは、近年の世界金融危機では適用できなかった。民間銀行が大量のリスク資産を購入し、担保となる安全資産を十分持っていなかったのだ。

二度と金融危機は起こさないという強い決意で、世界展開する大銀行への規制を強化したが、本当に大丈夫か。

本書は、金融規制は未だ不十分と論じる。著者は2013年までの10年間、英国の中央銀行総裁を務め、危機収束の陣頭指揮を執っており、その意見は見過ごせない。中央銀行のあり方を含め、歴史、実務、理論から金融経済の深層に迫る重厚な一冊だ。

民間銀行は流動性の高い預金など短期資金を負債に受け入れ、リスクの高い長期資産に投資して利ざやを稼ぐが、それこそが錬金術と批判する。リスク変換といっても、危機時に流動性の低いリスク資産を安全資産に交換するのは土台無理な話で、銀行システムは本質的に脆弱性を抱える。

来るべき危機に備え、自己資本を強化したうえで、民間銀行が中央銀行に担保として差し出す資産の掛け目をあらかじめ平時に設定し、短期負債を上回る流動性を事前に確保するよう提案する。強い抵抗が予想されるが、銀行支配を脱しなければ金融システム安定にはほど遠いという。

マクロ経済政策も修正が必要と論じる。将来の需要の先食いである金融緩和を繰り返し、効果が著しく逓減したというだけではない。中国を始めとする新興国やドイツ、日本など経常収支黒字国のだぶつく貯蓄の影響で、世界的に実質金利が低下し、米英など経常赤字国では借り入れが膨張、資産価格が高騰したのが近年の危機の根源だった。未だに成長率が低迷するのも経常黒字国の過剰貯蓄、経常赤字国の過剰消費というグローバル不均衡を抱えるからだ。

米英は消費から輸出へ需要転換すべきだが、景気配慮から、金利を低く抑え過剰消費を助長する。経常黒字国は輸出から消費に需要転換し、輸出財ではなく消費財の生産設備を増やすべきだが、今も輸出企業への配慮が止められない。長期均衡から遠ざかり、経済停滞の真因を政策が強化する有様だ。

中央銀行がニューケインジアン経済学に依拠し過ぎたことも危機の遠因と評者も考えるが、本書は根源的な不確実性を考慮した新たなマクロ経済学の誕生を予感させる。