中国ではスマホを使ったネット決済が日常的になっている。写真はシェア自転車を利用する様子(AP/アフロ)

中国ネット通販最大手のアリババ集団が提供する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」について、日本上陸が報道されるなど、注目が集まっている。こうしたネット決済は、信用取引が浸透していない中国での取引コストを引き下げ、企業の生産性向上に寄与する役割を果たしてきた。

一方、海外メディアでは、中国でのネット決済の急速な浸透は、共産党の意を酌んだ大企業に個人情報を集中させ、「監視社会」化を加速するとして警鐘を鳴らす声も少なくない。ここではネット決済自体の是非を論じるのではなく、こういった現象がなぜ中国社会で、世界の最先端を行く形で起きているのかを考えてみたい。

このようなテクノロジーの進歩やそれを牽引する企業が、市民の「できること、できないこと」を決めていくという状況は、目新しいものではない。サイバー法などを専門とする米ハーバード大学教授のローレンス・レッシグは、15年以上前から『CODE─インターネットの合法・違法・プライバシー』などの著作で、テクノロジーの進歩が社会における規制のあり方をどのように変えていくのか、鋭い問題提起を行っていた。

レッシグは、市民の行動を規制するのに、「法」「規範」「市場」「アーキテクチャ」という四つの手段があることを指摘する。このうち「アーキテクチャ」を通じた行動の規制とは、駅のベンチに仕切りを設けることで酔客がそこに寝転がりにくくするなど、インフラや建造物等の物理的な設計を通じて、ある特定の行動を「できなくする」ことを指す。レッシグは、コンピュータとインターネットによって生み出されたサイバー空間では、大手企業の提供するアーキテクチャを通じた規制により、自由で創造的な行動を制限される度合いが強まっている、と警鐘を鳴らした。

たとえば、中国ではネット決済の広がりとともにシェア自転車サービスが普及した。これは短期滞在の外国人でも自転車が利用できる、便利このうえないサービスだ。だが外国人が利用登録をする際は、必ずパスポートの写真をスマホで撮影し、アプリを使って送信することが求められる。宿泊時に提示するならまだしも、たかが自転車をレンタルするのにパスポートを見せろという要求に法的根拠があるかは疑わしい。しかし疑問を持っても従わざるをえない。というのも、現実に存在するシェア自転車のアプリのアーキテクチャがそういうものだからだ。