外務省の公電は、以前に述べたように外務大臣と在外公館長(大使、総領事)との間で行われる。したがって、形式もあくまで主語は外務大臣と大使(もしくは総領事)になる。

たとえば、田中参事官がロシア大統領府の分析局から情報を取ってきた場合は、こんな表現になる(公電の内容は創作である)。

〈21日、往訪の当館田中に対して、露大統領府分析局のイワノフ次長が述べたところ次の通り。

1.来年3月の露大統領選挙を控え、既に政治の季節が始まっているところ、それまでプーチン大統領が北方領土問題について踏み込んだ決断をする可能性はない。

1.次期在日・露大使には、ガルージン在インドネシア・露大使が内定している。ガルージン大使は日本語も堪能で、日本の政界、経済界、アカデミズムなどに広範な人脈を持っていることを重視したクレムリン主導の人事である(当館注:ワイノ大統領府長官は元外務省の日本専門家で、在日ロシア大使館に勤務した時期はガルージンの部下だったので、この人事にはワイノ長官が関与していると思料される)。〉

というようなスタイルで公電が出される。この場合、公電は田中参事官が書いたものだ。これに対して、内容はまったく同じでも〈21日、往訪の当館田中に対して、露大統領府分析局のイワノフ次長が述べたところ次の通り(当館佐藤同行)。〉となると、会談は通訳を介さずに、田中参事官とイワノフ次長の間で行われたものだが、公電を起案したのは同行してメモ取りをした佐藤書記官ということになる。

あるいは冒頭で、こんな記述がなされていることがある。

〈21日往訪の当館田中に対して、露大統領府分析局のイワノフ次長が述べたところ次の通り(通訳当館佐藤)。〉

この場合、田中参事官はロシア語を理解しないので佐藤書記官が通訳し、しかも公電を起案したという意味である。