交通信号や液晶ディスプレーに使われる青色LED(上)やリチウムイオン電池(左)は、企業のサイエンス研究から生まれた

インターネットとコンピュータの進歩は、産業と社会を大きく変えた。これは一見、ソフトウエア工学や情報技術の成果にみえるが、土台を成したのは材料科学や物性物理学(物質の性質を研究する物理学)といったサイエンス研究の成果だ。これらの分野では日本が世界の産業史に残るイノベーションを重ねてきた。

代表例は、2014年にノーベル物理学賞を獲得した青色発光ダイオード(LED)だ。スマートフォンなど液晶ディスプレーを搭載した情報端末の普及は、青色LED抜きに考えられない。この成果において、日亜化学工業や松下電器産業(現パナソニック)といった企業におけるサイエンス研究が大きな役割を果たしたことは有名だ。リチウムイオン電池や酸化物半導体・IGZO(イグゾー)など、日本の企業内研究から生まれたイノベーションはほかにも多数ある。

ところが21世紀に入り、日本のサイエンス研究が停滞している。下図は主要国における学術論文の発表数だが、日本は1990年代後半から足踏み状態。断トツの発表数を誇る米国、急伸する中国を下回るばかりか、英独に比べても停滞感は顕著だ。

内訳を見ると、腫瘍(しゅよう)学や天文学など39分野では発表が増えたが、材料科学や物性物理学、分子生物学など61分野で減少し、全体では横ばいだ(出所・飯嶋秀樹氏と筆者の15年の論文)。そして減少している分野こそが、産業に直結するサイエンス研究だ。これは、90年代後半に企業がサイエンス研究から遠ざかった結果、若く有能な科学者がそれらの分野に失望し、研究の道に進まなかったためと筆者は考えている。