外務省には「公電文学」と呼ばれる表現術がある。公電とは、公務で用いる電報のことだ。通常は東京の外務本省と、諸外国に置かれたわが国の大使館、総領事館、政府代表部(ニューヨーク、ジュネーブ、ウィーンにある。国際機関において日本政府を代表する組織)で公電のやり取りがなされる。情報の内容に応じて、平(無指定)、取扱注意、秘、極秘、極秘限定配布に分けられる。

平の情報は外部に提供しても構わない。取扱注意の情報は、秘密指定はされていないが、外部に対して提供することは認められていない。記事にしないことを前提に外務省が記者らに行うバックグラウンドブリーフィングの記録や、会員制の講演会での記録などに取扱注意の指定がなされる。

秘密指定には、秘と極秘がある。相手政府とのやり取り、秘密裏に入手した情報、本省からの訓令、大使からの意見具申などはいずれも秘か、極秘の指定がなされる。

平、取扱注意、秘、極秘の公電には必ずパターンコードが記される。このパターンコードに従って、本省は公電を配付する。パターンコードを見ると主管する課、扱っているテーマ、公電の配付範囲がわかる。重要なのは配付範囲で、Eとすれば担当官と課長にしか行かない。Dでは他の課にも配付される。Cとすると局長までだ。Bとすると外務大臣、外務副大臣、外務政務官、事務次官に配付される。A指定だと首相にまで届けられる。在外大使館が公電を外務省以外の省庁に配付してほしいと考えるときは、「本電を財務省と経済産業省に転達願いたい」というような文言を末尾に記す。

外務官僚には、自分が取った情報をできるだけ上位の幹部に見せたいという欲望がある。とはいえ、内容のない情報にAやBを指定して送ってきても、本省で顰蹙(ひんしゅく)を買うだけだ。そういう電報が続くと、本省から「適切な指定をするように」と指導される。

それではどういう基準で公電を読むのだろうか。第一は、誰から入手した情報かという基準だ。たとえば米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領から直接聞いた話ならば、どの幹部でも食らいついてくる。

それほど有名でない情報源から入手した情報については、誰が取ってきた情報かが基準となる。たとえば、過去に重要情報を取ってきた大使館員からの情報はよく読まれる。外交官時代、筆者の電報はよく読まれていた。ロシアのチェルノムィルジン首相の失脚(1998年3月23日)に関する情報を事前にテルアビブで入手したことがあるが、このときは外務省幹部だけでなく橋本龍太郎首相からも「よく取ってきた。君の公電はわかりやすいな」と直接声をかけられた。