日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用
日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用(日本経済新聞出版社/256ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
おおわん・ひでお●東京大学社会科学研究所教授。1964年生まれ。東大理学部卒業。野村総合研究所を経て、米コロンビア大学経済学修士、米スタンフォード大学でPh.D.取得。米ワシントン大学オーリン経営大学院助教授、青山学院大学国際マネジメント研究科教授を経て、2010年から現職。

きめ細かい人事データの分析通じ真の効果を測る

評者 慶応義塾大学経済学部教授 土居丈朗

「働き方改革」は、官民挙げての一大キャンペーンとなった。しかし、その効果はどのように測ればよいか。現場での経験や勘ではなく、人事データを活用して因果推論に基づき核心に迫ろうとするのが、本書の醍醐味である。

リモートワーク、フリーアドレス制、副業解禁、男性の育休取得促進、残業の上限設定など、施策は多岐にわたるが、そのうち本当に生産性を上げたのはどれか。その効果を測ることは容易ではない。二つの変数の相関関係をみて、原因だの結果だのと言っていても、真実には迫れない。これまで活用できなかったデータをきめ細かく考慮して、因果関係をあぶりだす。そうしなければ、ビッグデータは宝の持ち腐れで、かつ誤った結論を導き出すことになる。

本書では、人事データ、とりわけ、異動履歴や勤怠情報といった従来でも利用できたデータだけでなく、適性検査スコアや面接評点といった非認知能力に関する採用時の情報やストレスチェック診断結果など、これまで利用できなかったデータを注意深く活用した分析が、一つの特徴である。

さらに、働き方改革などの施策の効果を測るということは、施策を実施した場合としなかった場合の差を測ることである点に着目したところも、本書の特徴に挙げられる。

本書に記された例で言えば、リモートワークを導入した企業が、その効果を測ろうとするも、「仮に導入しなかったら」というケースは観測しようがない。だから、往々にして、導入前後を比較して、残業時間が何%減ったとか、利益が何%増えたとかと、強引に結論付けようとする。しかし、それは効果を測ったことにはならない。

制度導入前後だけでなく、導入後にも、時々刻々と従業員の行動は変容しているからである。場合によっては、社内で無作為に選んだグループの間で一定期間実験を行い、制度導入の有無による差を定量的に把握することで、真の効果を測ることができる。

企業で女性活躍がなぜ進まないか、優秀な社員の定着率を上げるには何が必要か、よい上司はどのような経路を通じて部下の生産性を引き上げているか、といった興味深い問いにも、きめ細かい人事データを適切な手法で分析した結果から得られた含意を、本書の中で披露している。

働くことは我々の身近なことであるがゆえに、こうした人事経済学の潮流を平易に解説している本書の内容に、読者は親近感を抱くに違いない。