人事と組織の経済学・実践編
人事と組織の経済学・実践編(日本経済新聞出版社/576ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Edward P. Lazear●米スタンフォード大学経営大学院教授、フーバー研究所上席研究員。米ハーバード大学博士。人事経済学の嚆矢。『Journal of Labor Economics』を創刊。
Michael Gibbs●米シカゴ大学ブース経営大学院教授。同大学博士。ハーバード大学、ミシガン大学、仏パリ政治学院などで教鞭を執る。人事経済学の先導的な実証研究者。

データ分析に基づきメカニズムを解明

評者 中央大学商学部教授 江口匡太

人事管理の難しさは何といってもまったくの他人である労働者にきちんと働いてもらうことにある。コンピュータと違って、指示や命令を出しても、人間は意図したとおりに動いてくれるとは限らない。一人ひとりの働きぶりを四六時中監督することなど不可能であるから、そもそもきちんと働いているか把握することすら難しい。さらに、個々の労働者はさまざまな事情と経歴を持っているので、多様な評価は避けられないが、評価方法は組織として統一が必須という相反する性質を満たさなければならない。

このような困難を伴う環境の中で、望ましい人事制度を構築するために、職能、職務、役割など、さまざまな指標をつくり、多様な制度が試されてきた。人事管理制度を大きく変えた企業では、革命が起きたかのような言われ方がしばしばされるが、その背後には変わらない原理原則がある。それは、人はインセンティブに反応するということだ。

会社の目的に応じた働き方を労働者にしてもらうために、また、上司が適正に部下を評価するために、どのようにインセンティブを与えればよいのか、人事管理制度の背後にあるインセンティブ・メカニズムの理解を深めてきた経済学の一分野が、人事の経済学である。

著書の一人であるラジアー教授はこの分野の創始者である。経済学の中で相応の位置を占める分野にまで確立させた最大の功労者でもあり、当該分野で知らない人はいない。ラジアー・カーブと聞けばピンとくる人も多いのではないだろうか。中高年労働者の賃金は、その生産性よりも高いことが安定的に観察されるが、最初にそのメカニズムを明らかにした功績で知られる。今ではラジアー・カーブは実務関係者にも広く知られており、それの何がすごいのかと思われるかもしれないが、最初に論文が発表されたときは大きなインパクトを与えたものであった。

本書の特徴は、人事制度の背後にある理論的なメカニズムに加えて、実際の企業で行われている人事管理の調査研究やデータ分析の成果を多く取り込んでいるところにある。また、内発的動機付けのような心理学とも関連の深いトピックも近年の研究の発展を踏まえて紹介されている。

現実の人事管理において、インセンティブの仕組みがどのような形で具現化されているのか、多くのエピソードを紹介しながら読者の理解を深めてくれる。