【今週の眼】苅谷剛彦 英オックスフォード大学教授
かりや・たけひこ●1955年生まれ。米ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、博士(社会学)。東京大学大学院教育学研究科助教授、同教授を経て2008年から現職。著書に『階層化日本と教育危機』『増補 教育の世紀:大衆教育社会の源流』『教育と平等』など。(撮影:尾形文繁)

加計学園の獣医学部新設をめぐり、岩盤規制を打ち破ろうとする国家戦略特区制度が議論の俎上に上った。「首相の意向」をめぐって政治的スキャンダルに発展したが、ここでは、政治の問題としてそれを論じるつもりはない。特区が目指す大学の定員規制撤廃の問題を、大学の学生(獲得)市場と卒業生の就職市場との関係から考えてみたい。

最終学歴を提供する大学は、入学者の獲得をめぐる学生市場と、卒業生の就職先をめぐる就職市場の二つの市場で競合している。両者は相互に関係する。卒業生の就職実績が大学の評価につながり、それが学生市場での有利、不利に結び付く。他方、学生市場で優秀な学生を集められなければ、卒業生の就職市場にも響いてくる。前者は偏差値ランキングで、後者は就職実績ランキングで示され、一定の相関関係がある。

日本の大学は、その8割近くが私学(その多くは授業料収入に依存)で、しかも主に18歳の若者を入学させることで成り立っている。さらには新卒一括採用で得られる初職が重要な意味を持つ。言い換えれば、大学院での「社会人入学」など、転職のための学び直しが再就職の際にほとんどプレミアムを持たない。

この日本的特徴のため、大学が生き残れるかどうかは、二つの市場次第となる。日本で多数を占める人文社会系中心の(私立)大学の場合にその傾向は一層強まる。

一方、医師や法曹、教職といった専門職の場合には、就職市場の様相がそれとは異なる。国家資格による枠がはめられ、さらに教職では、公務員としての就職が多数を占める。