【今週の眼】佐藤主光 一橋大学教授
さとう・もとひろ●1992年一 橋大学経済学部卒業、98年加クィーンズ大学博士号(経済学)取得。2009年から現職。専門は財政学。政府税制調査会委員なども務める。著書に『地方税改革の経済学』『地方財政論入門』、共著に『震災復興 地震災害に強い社会・経済の構築』など。(撮影:梅谷秀司)

おおむね10年後を念頭に置いた長期ビジョン「税務行政の将来像」を国税庁が公表した。確定申告や年末調整に必要な書類を従前の紙ベースから電子データに置き換え、電子化を推進するとともに、人工知能(AI)を駆使して納税者からの相談内容を分析、最適な回答を行うようにする。

また、マイナンバーを使って国税当局が保有する情報と突合させ、申告に誤りがないかどうかを自動的にチェックし、AI・ビッグデータを使って税務調査や滞納整理の重点化・効率化を進めるという。たとえば、統計分析の手法を適用して、納税者ごとに調査が必要かどうかの判定を精緻化するとともに、電話と文書のどちらがよいのか、最適な接触方法や調査の必要項目について提示するシステムを構築する。OECDも税務行政フォーラムにおいて、徴税の効率化に向け税務データの分析を推奨している。

AIの活用を含む税務のデジタル化は世界的な潮流である。AIの利用はシンガポールなどでも試行されてきた。韓国やエストニアなど、この分野の進歩が目覚ましい国もある。英国でも「税のデジタル化」と称して、将来的には個々の納税者と課税当局がネット上で直接やり取りをし、簡単に確定申告ができるシステムの構築を計画している。北欧諸国では課税当局が確定申告書類に所得や控除など必要情報を記入、ネット上で納税者がこれを確認して提出する「記入済み申告制度」が行われてきた。いずれも単なる徴税強化ではなく、個人・企業の利便性の向上を図っているのが特徴だ。

他方、わが国では所得税は源泉徴収と年末調整で完結するため、自身で確定申告をする機会が乏しく、納税の利便性といわれてもピンとこないかもしれない。しかし、今後、状況は変化しうる。