「おかしいと思えば、上司の命令だって断わりますよ。普通に! だって、社長も間違えることはあるし、お客さんにウソはつけないし、職人も真剣にやってますからね」

私より一回り若い、40歳の女性建築士が言った。

自衛隊を辞めてからの私はフリーランスの身だから、自分一人の判断で仕事を断ることがいくらでもある。しかし、その建築士はフリーランスではない。工務店の社員であり給料をもらう立場である。

けれども、自分の判断で命令を断ることがあると言うのだ。そして、断ったせいで上司と議論になることはあっても、口論になるとかクビになるなんてことは絶対にないとも言う。

自衛隊は絶対服従

私は20年間勤務した海上自衛隊のことを考えていた。

海上自衛官は、トップである海上幕僚長から最下級の2等海士まで4万人以上いて、その全員に上官が存在する。海上幕僚長も防衛相から命令を受けるし、自衛隊内では毎日何十万という命令が出され受けられている。

だが、「自分が出した命令を断られたことがある」という人にも、「自分は出された命令を断ったことがある」という人にも会ったことがない。なぜなのだろう。工務店の人は間違えることがあるのに、海上自衛隊の人は間違えないというのか? そんなことはない。

危急存亡の時に動く自衛隊において命令に従わないなんてことを許したら……、という意見もあるだろう。だが、それでは工務店には危急存亡の時がなくて、命令に従わないことが起きても平気なのだろうか? そんなこともない。

自衛隊は倒産しないが、工務店は倒産する。むしろ民間のほうが厳しい世界に生きている。